それにしても今、日本ではあまりクラシックピアノやスポーツカーといった文化に馴染みがない。まずは費用が嵩む。そして時間的余裕がない。このふたつがこれら文化の裾野が広がらない大きな原因と言えよう。
車の場合、まずは購入費が要る。購入後も車検、自動車ディーラーによる定期点検、駐車場使用料などなどの維持費が必要だ。
ピアノもそうだ。最初に購入費。購入後も音の調整を行うための調律費、場合によっては防音設備も行わなければならない。車と同じく維持費が嵩むシロモノである。
スポーツカーもピアノも
一部のファンのものではなくなる
さて、今ピアノの世界では、コロナ禍以降、“ストピ”ことストリートピアノの普及も相俟って、大人の趣味としてのピアノを習おうという成人男女が増えてきたという。
このピアノブーム再燃のプロセスを車に置き換えれば、これまでになかったスポーツカーブームが起きるはずだ。
その際、まず自動車メーカーは、最低限、全国の主要都市にある販売会社にZのような“推し”のラインナップを試乗車として置く。そしてレンタカー、カーシェアといったそれにZをはじめとするスポーツカーの扱いを増やす。
それも15分、30分、1時間といった短い時間でのレンタル、シェアも可能にするとよい。短時間であれば、レンタル費用もリーズナブルに設定できよう。とくにZのような存在感ある車であれば、ほんの短い時間でもいいので乗ってみたいというニーズがきっとあるはずだ。
関西クラシック音楽界のプリンス・大倉ら若き音楽家たちが、音楽界という孤高の塔から飛び出し、クラシック音楽など興味のない人たちのところに自分たちで降りてきた。
これと同じく、今、日本のスポーツカー文化は、ごく一部のファン層にのみ目を向けるのではなく、まったくスポーツカーなど興味のなかった人たちの間に飛び込んでいくことで、より広い裾野へとアプローチできるのではないか。これができたとき、日本の自動車業界は、再び輝きを見せるのではなかろうか。(文中敬称略)
京都市立芸術大学卒、同大学大学院を首席で修了。修了時、大学院市長賞を受賞。パリ地方音楽院にて3年間研鑽を積み帰国。兵庫県学生ピアノコンクール高校生部門最優秀賞、KOBE国際音楽コンクールC部門最優秀賞、ピティナ・ピアノコンペティションG級全国大会入選など、その他数々の賞歴を誇る。2022年には、青山賞、ローマ賞、エリザベート王妃国際音楽コンクールなどの受賞で知られる世界的な作曲家・酒井健治氏の個展にて、「ピアノのための練習曲集第2巻」から「トッカータ」、「死の舞踏」を世界初演、大成功を収めた。現在は、関西を拠点に演奏活動を行う傍ら、後進の指導にも力を入れている。正統派のクラシックピアニストとして、関西音楽界では若手ながらも圧倒的な存在感を持つ。
(フリージャーナリスト 秋山謙一郎、取材協力・広報車提供/日産自動車)