2024年3月期の業績はANAホールディングス(HD)にとって過去最高益となり、25年3月期も好調が続いているが、株価はコロナ禍前の水準には回復せず、低迷したままだ。さらに、長期化する円安や米ボーイング社の航空機納期遅れなど“逆風”が吹く中で、ANAHDはどのように成長を目指すのか。長期連載『経営の中枢 CFOに聞く!』の本稿で、中堀公博グループ常務執行役員グループ最高財務責任者(CFO)に話を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 田中唯翔)
国際線拡大が成長の鍵に
ROE12%以上を安定維持へ
――ANAホールディングス(HD)における最高財務責任者(CFO)とは、どのような役割を果たすべき役職なのでしょうか。
われわれの中核事業は航空輸送事業ですので、航空機をはじめ、多額の設備投資が継続的に必要となる事業になります。一方で、業績は景気をはじめ外部環境に左右されやすい業種です。設備投資は投資の回収をしなければならないですが、その原動力は人的資本です。将来のリスクに適切に対処しながら持続的に成長するために、人材や設備投資にバランスよく経営資源を配分し企業価値の最大化を目指すのが、CFOの役割です。
財務の責任者というと、ブレーキを踏む係に見えるかもしれません。しかし、ブレーキだけでなく、アクセルもうまく踏めないと、外部環境に左右されやすい航空輸送事業は成長できません。アクセルとブレーキの絶妙なコントロールがANAHDのCFOに求められていると考えています。
――アクセルとブレーキを使い分けて成長していく上で、中堀CFOが最も重視されている経営指標を教えてください。
経営指標として重視しているのは、収益性と効率性の両方を反映している自己資本利益率(ROE)です。持続的な成長をしていくために、ROE12%以上を目標に掲げています。2024年3月期は史上最高益でしたので、16%と高い結果になりましたが、安定的にROE12%以上を目指すことで、常に株主資本コストを上回る状態を継続します。
――25年3月期の予想営業利益は1700億円です。中期経営戦略の26年3月期の目標営業利益は2000億円です。ROEの目標達成に向けてどのような課題がありますか。
26年3月期に向けては25年3月期の業績予想対比で300億円の増益が必要になりますが、最も利益率の高い国際線のANAブランドの旅客需要で利益を稼いでいくことが一番のポイントだと思っています。
そのためには事業規模を伸ばさないといけません。ボーイング社の航空機デリバリーの遅延などの問題もありますが、機材とオペレーションの人材をしっかりと確保して、国際旅客事業が増益できる規模に伸ばしていく。そうした意味では、新規就航のミラノ便、ストックホルム便、イスタンブール便の3路線についても、増収増益という面で期待が大きい路線です。
26年3月期は25年3月期比でイールド(旅客1人に対する1キロメートル当たりの収入単価)が少し落ちる可能性ありますが、高いイールドを維持したままトップラインをしっかり伸ばしていくことが重要だと思っております。
――25年3月期上期の売上高は過去最高を更新しましたが、コロナ禍前と比べると株価は低い状態が続いています。市場の反応をどう受け止めていますか。
24年3月期の業績はANAHDにとって過去最高益となり、25年3月期も高いイールドを背景に好調が続いている。しかし、株価はコロナ禍前の水準には回復していない。これはなぜか。そして、円安が続く外国為替市況や米ボーイング社の航空機の納期遅れの問題は経営にどのように影響してくるのか。次ページで中堀CFOが語る。