急上昇した米国株価指数のリターンは長期に持続可能か

 筆者の懸念は、円ベースの米株インデックスファンドのリターンが過去3年に極端に上昇していることだ。「急上昇したリターンが心配」というのは奇妙に聞こえるかもしれないが、長期平均的なリターンから上げにも下げにも大きく乖(かい)離した資産のリターンは、その後は反動で長期的な平均的リターンに回帰する傾向が強い。これは投資の世界では「リターンの平均回帰」として知られていることだ。ただし、平均的なリターンからどこまで乖離すれば「回帰」が始まるのかは不確実で規則性はない。

 そこでまず米株インデックスファンドに投資した場合の年率リターンの変遷と分布を見てみよう。図表2は1970年1月から2024年12月の期間、日本人が円資金でS&P500に連動するインデックスファンドに過去20年間毎月積立投資(配当再投資ベース)をした場合、年率で何%のリターンが出たかを各月毎に計算したものだ(青い折れ線)。ケースは660通り(=12カ月×55年)である。

 併せて円換算したS&P500(配当再投資ベース)の推移を黒い破線で示した。メモリは右側で、長期で水準が大きく変わるため対数表示にしてある。

 この計算は2022年4月の論考(「米国株、長期・分散積立投資なら大丈夫は本当か」)で行ったものと同じだが、前回論考から2年6カ月経ったのでデータを更新した。もちろん、インデックスファンドが米国でも普及するのは1980年代以降であるし、80年代以前は日本の個人投資家が海外の株式に投資することは外為管理法で規制されていたので、これは「もししていれば」という想定に基づく計算だ。

 年率リターンの中央値は8.6%であり、660ケースのうち42.3%がリターン7~10%の幅に分布する。直近の2024年12月末を終期とする20年間のリターンは16.8%、投資累積額に対する時価資産総額の倍率(以下「投資倍率」と記す)は6.35倍と過去最高だ。660ケースのうち、リターンがこの最高水準の16~17%に分布するケースはわずか1.2%でしかない。

 さらに最近の20年間の年率リターンの変化を見てみよう。3年前の2021年12月に終期を迎えた20年期間のリターンは13.6%、投資倍率は4.29倍である。この期間のリターンも相対的に高いのだが、直近3年間で年率リターンは13.6%から16.8%に、投資倍率は4.29倍から6.35倍に急上昇したわけである。その理由はドル建ての米国株の上昇に円安・ドル高が重なったことに他ならない。

 この突出したリターンが次の10年も継続すると期待するのは、控えめに言っても過剰な期待だろう。図表2が示す過去のリターンの分布域である7~10%方向に向かって回帰する局面がいずれ起こると考えるのが妥当だと思う。

S&P500も全世界株価指数もM7次第

 「自分は米株への集中を回避するために全世界株価指数連動の投信を選んでいるので、その点のリスクは軽減される」と考えている方もいるだろう。しかし、それは間違いだ。全世界株価指数(MSCI ACWI)の約64%は米国株である。また、S&P500の時価総額のうち、M7銘柄(Magnificent 7:アップル、アマゾン、マイクロソフト、アルファベット、メタ、テスラ、NVIDIA)が約32%を占めている。この米国のM7銘柄がS&P500もMSCI ACWIも押し上げている構図は全く同じだからだ。

 M7の直近の株価収益率(PER)は、最も低いアップルでも約26倍、NVIDIAは57倍、テスラは112倍と非常に高い。こうした非常に高いPERはこれら企業の将来の1株当たり利益成長率が高い限り合理的に正当化できる。しかし、高い期待成長率が下方修正された場合には、株価の下げの度合いも大きくなる。