ANAホールディングスはANAマイレージクラブ会員の顧客基盤を活用し、非航空事業の売り上げを数年で倍増の4000億円に拡大することを目指している。楽天グループが楽天会員へ向けて金融や物販などさまざまなサービスを提供する「楽天経済圏」のように、「ANA経済圏」をつくるものだ。既存プレーヤーに対し勝算はある。が、アキレス腱も抱える。特集『ANA・JAL 黒字回復後の修羅』(全13回)の#5では、ANAグループにおける非航空事業の内情に迫る。(ダイヤモンド編集部副編集長 臼井真粧美)
陸マイラーに追い風
マイルで生活する「ANA経済圏」
遠距離の出張が重なって忙しいときも、「でもこれでマイルがたまるんだ」と自身を励ますビジネスマンは少なくない。出張で飛行機に乗ればマイルがたまる。たまったマイルを航空券に交換すれば休暇旅行に繰り出せる。マイルはまさにご褒美である。
ただ近年は、LCC(格安航空会社)が充実してきており、レジャーはLCCの安い航空券を買うというのも選択肢になった。新型コロナウイルスの感染拡大で出張や旅行の機会が減った期間に、マイルをためる熱が冷めたという声をもある。
マイルに対する思いが揺れる中、ANAグループはマイルを軸にした非航空事業の売上高をコロナ禍前の2000億円規模から、数年で倍増の4000億円にする目標を掲げた。楽天グループが楽天会員へ向けて金融や物販などさまざまなサービスを提供する「楽天経済圏」のように、マイルを日常生活でためたり使えたりするサービスを増やして「ANA経済圏」をつくるのだ。
飛行機に乗らずに航空会社のマイルをためる「陸マイラー」にとって大いなる追い風となる展開である。もっとも、自社が提供するサービスにポイントを付けて利用者を囲い込む「経済圏ビジネス」は甘くない。
楽天をはじめソフトバンクグループ、NTTドコモ、KDDIといった通信サービス大手などがしのぎを削り、ポイントをばらまくなどして熾烈な競争を繰り広げている。独り勝ちのマーケットになっていないともいえるが、今さらANAグループが入り込む余地はあるのか。
次ページでは、ANA経済圏の勝算と意外なアキレス腱について明らかにする。