食前酒のあと、天ぷらに野菜の煮つけ、魚料理もあったと記憶している。ごはんは茶碗に半分ほどよそってあった。天ぷらにした山菜について美智子さまが、

「これは御所でとれたんですのよ」

 とおっしゃったり、食前酒について、

「これは私の妹がヨーロッパで買ってきたお土産なんです」

 と説明してくれたりしたことがあった。

ソ連をも撤退させたアフガニスタンの
巧みな戦術を陛下に教わる

 私たちのほかには給仕の係が1人いるだけで、時折「おかわりはいかがでしょうか」と聞いてくるだけだ。食卓ではごく普通に食事をめぐる会話が弾んだ。

「ごゆっくり食べてくださいね」

「これで足りますか」

 と美智子さまは気を遣ってくださる。私も半藤さんも健康のことを考え、あまり食べ過ぎないようにしていたので食事は20分ほどで終わった。食事の後はいったん休憩が入り、両陛下がお部屋をいちど離れた後、10分ほどしてからまた応接間で懇談が始まった。

 エチオピアとの縁は意外だったが、もうひとつ陛下の口から出た話で意外だった国がある。アフガニスタンだ。エリザベス女王の戴冠式には、アフガニスタンの王子も招かれており、その王子の話からアフガニスタンの話になった。

 アフガニスタンには、ザーヒル・シャーという国王がいたが、エチオピアと同じく1973年にクーデタで王朝は倒された。その後、1979年に親ソ政権支援のためソ連軍が侵攻したが、泥沼化し10年後には撤退を余儀なくされる。2021年4月には、バイデン政権が米軍のアフガニスタンからの撤退を決断した。2001年の同時多発テロ以降、駐留を続けたものの、国内は安定せず、アメリカもソ連と同じく手を焼いて放り出した。多民族国家であり厳しい山岳地帯が続く国だ。大国の武力をはねのけてきた歴史がある。

 半藤さんは聞いた。

「私も少し調べましたけれど、なかなかわかりませんでした。あのソ連でもアフガンに勝てなかった理由は何だったのでしょうね」

 陛下は「私が理解している範囲ですが」と前置きして説明を始めた。大要、次のような話であった。

「例えば、渓谷の谷間の道を戦車隊が入ってきますよね。するとアフガニスタン軍は最初の戦車と最後の戦車をまず叩く。すると戦車隊は前にも後ろにも進めなくなる。そうして残りの戦車を囲んで攻撃する。そういう戦術をアフガニスタン軍は採ったようですね。地形を生かした戦術が巧みだったと聞いています」