「点を多く取ったほうが勝つ」→「アウトにならない選手が多いほど負けない」

 当時、MLB随一の貧乏球団であったオークランド・アスレチックスのゼネラルマネージャー、ビリー・ビーンは、野球というゲームの見方を大胆に捉え直しました。野球から得られるデータの価値を画期的に変え、アスレチックスをプレーオフ常連の強豪チームへと変貌させたのです。つまり、データから独自の「インサイト」を発見し、データを有用に活用することでイノベーションを起こしたのです。

 彼は「野球とは、点を多く取ったほうが勝つゲームである」という、従来の圧倒的な常識を、「野球はアウトにならない選手が多いほど負けないゲームである」と読み換えました。これまでの「チームの『平均打率』が当然、得点や勝敗に大きく影響している」という常識を覆し、「『出塁率(ヒットだろうと四球だろうと、とにかく"アウト"にならずに塁に出る確率)』こそが、より得点に大きく影響し、勝敗を左右する」という説に着目し、チーム作りを変革したのです。

 そして、それまで選手の年俸には反映されていなかった四球の数が多いバッターを安い金額で獲得し、年俸の高いスター選手がいなくとも勝てるチームを作り上げたのです。

「OPS」という新しい指標データで見る、大谷翔平の凄さ

 この考え方を発展させた指標が、冒頭のOPSというデータです。OPSとは「打者がアウトにならずに、ヒットだろうが四球だろうが、1回の打席でどれだけ塁を進めることができるか」の期待値です。すなわちOPS=「出塁率」+「長打率(塁打数/打数)」という式で計算されます。

 OPSが1.000ならば、平均して1回の打席で、確実に一塁まで進むことができるという考え方です。OPSは、.700が「並」、.800は「良い」とされていますが、大谷選手の2024年のOPSは、その数値を大きく超えるリーグトップの1.036。つまりこれは、「大谷選手が打席に立ちさえすれば、平均して確実に一塁のちょっと先まで進むことができる」ということを意味します。

 OPSがシーズン平均で1.000を超えるのは驚異的であり、2024シーズンは他には、ヤンキースのジャッジ選手しかいません。ちなみに、イチロー選手は、ヒット数はメジャーリーグの19年間だけでも3089本、平均打率も.311というすばらしい記録を残していますが、単打が多く、四球も少なかったため、OPSは並の選手より少し良い、.757に留まっています。

『週刊だえん問答 コロナの迷宮』(若林恵+Quartz Japan編著 黒鳥社)より引用。詳しくはこの本を参照ください。