
損害保険業界の構造的課題を議論するために開催された有識者会議と金融審議会の保険ワーキンググループ。両方のメンバーを務めた三浦法律事務所のパートナー弁護士である大村由紀子氏は、「もっと議論を続けるべきではないか」と保険業界に対して苦言を呈する。特集『保険大激変』の#7では、その理由を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部編集委員 藤田章夫)
保険業界は今年が正念場だが
業界内でもっと議論を深めるべきだ
――損害保険業界の構造的課題と競争の在り方を議論するために、2024年に有識者会議と金融審議会の保険ワーキンググループ(WG)が設置され、報告書が公表されました。両会のメンバーを務めただけでなく、長らく保険業界を見てきた立場として、どのように受け止めていますか。
大きく二つあります。一つ目は、業界にとって今年が正念場になるということです。金融行政は法令というより、監督指針に基づいて動いています。今回議論された論点のほとんどが、今年監督指針で明確化されます。どのように書かれるかによって、物事が大きく変わりますので、今年が重要な年になるというわけです。
二つ目は、多岐にわたる論点について議論がなされましたが、もっと議論をすべきではなかったかという点です。確かに、保険業法の改正など国会との関係もありますので仕方がないかもしれませんが、WGが終わったとしても、別途有識者会議やスタディーグループなどを立ち上げて、今回議論が足りなかったところをフォローアップしていくべきではないかと思っています。
――やはり議論し尽くされていないと。どのような点が足りなかったでしょうか。
難しかった点も多々あったと思いますが、もっとデータに基づいた議論が必要だったと思います。例えば、企業内代理店の議論にしてもあまり実態を示すデータがありませんでした。何かを変えることでどういう影響が出るのか、そういったシミュレーションがない中では判断するのが難しかったですね。
――企業内代理店に関しては、カルテル問題が起こるまで話題になることがありませんでした。顧客である企業グループに属する代理店であり、その立場の不明確さや、企業内代理店に支払われる手数料が保険料の実質的な値引きになっている恐れが指摘されています。金融庁としても実態把握を行いながら、同時並行で議論を進めている状況でした。
企業内代理店については、実は広がりのある論点だと思っています。というのも、保険料の値引きを禁じている「特別利益の提供」(保険業法300条第1項第5号)を考える際に、手数料体系がどうあるべきなのかに加え、代理店手数料ポイント制度の話などにも広がっていくからです。これらは企業内代理店だけではなく、一般の代理店にも関係する話です。
有識者会議や金融審議会の保険WGの報告書がまとまった。今年は保険業法や施行規則、監督指針などの改正がなされるが、大村弁護士は「もっと議論を深めるべきだ」と苦言を呈する。次ページでは、自主規制機関の設立に前向きな発言を行った真意や、保険料調整行為(カルテル)での課題、そして業界の大問題となっている比較推奨販売の難点について見解を述べてもらった。