才能はすでに知れ渡り、彼が積み上げてきた陰ながらの努力は、「あいつは天才だから」という言葉で片づけられた。生き馬の目を抜くような芸能界での異例のスピード出世は、最初から激しい嫉妬の対象だった。
デビュー作に費やした時間は4年だ。その間、西野はある時は東京・新宿にある吉本興業の東京本社にこもって、1枚の絵を完成させるのに何日も費やした。バラエティ番組の収録を終えた芸人たちが次々と海外旅行に出かけている元日であっても、ずっと描き続けていた。それでも周囲からは「先生気取りですね」「絵なんて芸人がやることではない」と批判が飛んできて、レギュラー以外のテレビをやらないと言えば、それも揶揄を通り越した否定の対象になった。
そもそも、「おもろい」ものとは何か、という前提からして周囲と噛み合っていなかった。漫才で笑わし、テレビでなにか気の利いたことを言ったり、受ける動きをしたりすることは確かに「おもろい」の1つではある。だが、すべてではないという思想が彼の根底にあった。
「ドリームキラー」の言うことを
鵜呑みにしてはいけない
西野が描く物語世界の基軸は「不可能な夢への挑戦」と「努力が報われるカタルシス」、この2つをセットで描くことである。
『映画えんとつ町のプペル』の主人公ルビッチは、煙に覆われた「えんとつ町」に住む少年だ。ある日、彼はゴミ人間と出会い、「プペル」と名付ける。この町の絶対のルールは「空を見上げてはいけない」というものだ。ルビッチは煙の向こうには星空があると信じている。だが周囲の友人たちは、「そんなものはない」といい、ルビッチはバッシングの対象になる。それでも星空があると信じているルビッチとプペルは、えんとつ町に隠された秘密を知り、煙に覆われた空を晴らすための冒険へと向かう。最後は馬鹿にしていた友人たちも2人の行動に巻き込まれていく――。
空が夢の象徴であることは明らかである。西野が『プペル』後に記したビジネス書『夢と金』(幻冬舎、2023年)のなかに「ドリームキラー」という言葉が出てくる。そのものずばり、人の夢を阻む人々のことだ。彼によれば夢への挑戦にブレーキをかけるタイプは4種類に分類できるという。