
もともとは大物芸能人に女性をあてがうアテンド業を行っていた、ガーシーこと東谷義和。事業は成功していたものの、ギャンブルで多額の借金を抱え詐欺に手を出したことで彼の凋落は始まる。ドバイに逃亡した上、YouTubeでの暴露動画の投稿や参院選での当選で一躍時の人となったが、結局一度も登院せずに除名となった。ガーシーの振りかざす「民主主義」とはなんだったのか。※本稿は、石戸 諭『「嫌われ者」の正体:日本のトリックスター』(新潮新書)の一部を抜粋・編集したものです。
芸能界の裏事情を暴く
ガーシーに目をつけた立花
追いこまれた東谷が講じた最後の一手が、ドバイに逃亡したうえで、20年以上のアテンド業を通じて知り尽くした芸能界の裏事情を赤裸々に明かす暴露だった。
その結果として、2022年2月に始まった「東谷義和のガーシーch(チャンネル)」は、急激に登録者数を伸ばし、多額の広告収入を得ることになる。普通、一般人が知ることのできない人気者たちの“裏の顔”は、瞬く間にネット上の話題をさらった。「○○は、未成年のアイドルをお持ち帰りしたで」「次は大物俳優の暴露や」……違法薬物、性犯罪、違法ギャンブルという刺激的なワードを織り交ぜ、関西弁で畳み掛けるように語る東谷には妙な迫力があった。
そんな東谷に目をつけたのが旧NHK党党首の立花孝志である。元NHK職員の立花は、NHKの受信料不払いやスクランブル放送化などを掲げ、2013年に「NHK受信料不払い党」を設立し、「NHKから国民を守る党」に改名後2019年の参院選で初当選を果たす(のちに辞職)。その後、党名を「古い政党から国民を守る党」「NHK党」など次々と変え、ガーシーの除名前後から、「政治家女子48党」を名乗っていた。
立花と東谷を結びつけたのは、政治的な思想や理念、政策などではなく金だ。
2022年2月以降、スキャンダル暴露によって爆発的に「ガーシーch」の登録者数を増やす東谷に対し、立花はツイッターのDMを使ってコンタクトを取った。理由は極めてシンプルで、そのとき一番伸びているユーチューバーだったからだ。それまで「著名人」「有名人」というのは、ほぼイコールでマスメディアでの露出が高い人を指していた。しかし、その定義は変わってきた。いまや誰もが知っているわけではないが、YouTubeの登録者数が多いというのはそれだけでコアなファンを抱えた「著名人」だ。マスメディアがまだ気づいていなかった「著名人」の変化を的確に捉えていた、立花の嗅覚には確かに鋭いものがあった。