“上司が知りたいだけ”の質問は避ける

「誰とぶつかっているんです?」という上長の問いは、上長の関心から発せられたものであり、部下の学びにはあまり関係がありません。本人が思い出して、学び、行動することが重要なのです。

 この場合、上長は「ぶつかりがちで」という言葉に過剰に反応し、「誰と?」と聞いてしまっています。これでは、部下のためにはなりません。

部下「い、いえ、具体的に誰といいますか…」
上長「けっこう激しく衝突? しょっちゅう起こるんですか?」

 自分が事実を把握するために質問攻めにしてしまっています。事実を正確に把握したいという気持ちは、わからなくはありません。かといって、100%事態を把握するのも無理でしょう。

 このような関係が続けば、上長からの指示に沿って行動するだけの「考えない部下」になってしまいかねません。

 ここでの上長の質問は、どれも上長の関心や興味に基づく質問であり、対話の内容は部下が本当に話したいことからずれていくことになります。

 一方で、ケースBの上長は、部下の語りを聞くことに集中しています。語ることによって、だんだん自分の考えが明瞭になり、深まっていく。部下のための時間が進んでいきます。

 1on1は、上長が職場の状況を把握するために行うものではありません。原則は「部下のための時間」なのです。

『増補改訂版 ヤフーの1on1』では、部下との対話に必要なコミュニケーション技法について体系的かつ実践的に学ぶことができます。

(本稿は、2017年に発売された『ヤフーの1on1』を改訂した『増補改訂版 ヤフーの1on1 部下の成長させるコミュニケーションの技法』の内容を一部抜粋・編集して作成した記事です。ヤフー株式会社(当時)は現在LINEヤフー株式会社に社名を変更しましたが、本文中では刊行当時の「ヤフー」表記としております)

本間浩輔(ほんま・こうすけ)
・パーソル総合研究所取締役会長
・朝日新聞社取締役(社外)
・環太平洋大学教授 ほか
1968年神奈川県生まれ。早稲田大学卒業後、野村総合研究所に入社。2000年スポーツナビの創業に参画。同社がヤフーに傘下入りしたあと、人事担当執行役員、取締役常務執行役員(コーポレート管掌)、Zホールディングス執行役員、Zホールディングスシニアアドバイザーを経て、2024年4月に独立。企業の人材育成や1on1の導入指導に携わる。立教大学大学院経営学専攻リーダーシップ開発コース客員教授、公益財団法人スポーツヒューマンキャピタル代表理事。神戸大学MBA、筑波大学大学院教育学専修(カウンセリング専攻)、同大学院体育学研究科(体育方法学)修了。著書に『1on1ミーティング 「対話の質」が組織の強さを決める』(吉澤幸太氏との共著、ダイヤモンド社)、『会社の中はジレンマだらけ 現場マネジャー「決断」のトレーニング』(中原淳・立教大学教授との共著、光文社新書)、『残業の9割はいらない ヤフーが実践する幸せな働き方』(光文社新書)がある。