自伝というと著名人のものと思われがちですが、私たちはみな自叙伝を記すようにして日々を生きています。自分の人生史が記されている記憶を自伝的記憶と言います。そこには幼い頃の出来事や思い、青春時代の出来事や思い、働き盛りの頃の出来事や思いが刻まれています。

 心温まる懐かしい出来事もあれば、悔やんでも悔やみ切れない出来事もあるでしょう。感謝の気持ちでいっぱいになる出来事もあれば、悔しくてたまらない出来事もあるでしょう。有頂天になることもあれば、どん底な気分に落ち込むこともあったかもしれません。幸福感に満ちた時期もあれば、悩みや悲しみに押し潰されそうな時期もあったかもしれません。

 自伝的記憶を繙(ひもと)いてみれば、物心ついてから今までのあらゆる出来事やそれにまつわる思いが蘇ってきます。そこには、個々バラバラな記憶の断片があるのではなく、

「あの出来事が後々のこの出来事につながっている」
「あのときの経験がその後のこうした行動傾向につながっている」

 といった感じで、因果の連鎖があり、自分らしさの片鱗がちりばめられています。言わばだれもが自分の物語を生きているのです。

 では、自分はどんな物語を生きているのか。その物語の中で、これからどう生きていくのがよいのか。過去を振り返りながら考えてみましょう。

人生の半分以上を過ごしてきて思うこと

 自分の人生は何歳まで続くのか。それはだれにもわかりません。

 厚生労働省の「簡易生命表(令和5年)」によると、2023(令和5)年の日本人の平均寿命は男性が81.09歳、女性が87.14歳となっていますが、それはあくまでも日本人男性および女性全体の目安にすぎません。平均をはるかに超えて長生きする人もいれば、平均よりずっと短命に終わる人もいます。

 でも、ほぼ確実なことは、60歳であれば人生の半分以上を過ごしてきているということです。そこでこれまでの人生を振り返ると、紆余曲折の人生を送ってきたことに気づき、よくここまでたどり着いたなあと感慨深いものがあるはずです。