一般に60代以降は喪失の時期と言われます。長年通ってきた職場から離れる。職業にしろ、家族の世話にしろ、これまで担ってきた役割を失う。体力の衰えを感じる。記憶力の減退を感じる。学生時代や職場の先輩だった人の訃報を受け取ることもある。そのような意味において、60代は喪失の時期とされるわけです。

 60歳を目前にして、こうした喪失を想定し、不安な思いを口にする人が少なくありません。

 たとえば、「これまで40年ほど仕事をしてきたし、転勤や転職で職場は変わったものの毎日のように通う場所があったのに、やるべき仕事も通う場所もないなんて、まるで必要のない存在になるみたいだ。無性に淋しくなるし、なんだか虚しい」という人がいます。会社員生活に馴染んできた人は、そうした思いが強いと思います。

 平日も家で過ごすと思うとゾッとするし、家で過ごす自分を想像できないという人もいます。家に居場所がない感じがして、休日も極力外出していたという男性などは、「退職後に家でのんびり楽しく過ごすなんてあり得ない」と言います。

 逆に、「夫が退職後に家にずっといるなんて耐えられないから、自分は外に居場所をつくらないと、と思っている」という女性もいます。

 仕事一途で来た人の場合は、引退後の生活への不安はとくに強いはずです。「定年退職後は好きに過ごしていいんだよと言われても、何をして過ごしたらいいのかわからないし、仕事ばかりしてきて無趣味な自分が、今さら趣味を持てと言われてもどうしたらよいのかわからないし、とまどうばかりだ」と言う人もいます。

 仕事を引退しても、なんの役割もないのは物足りないから、稼ぐために必死になる必要はないので、ボランティアでもいいから社会とつながっていたいが、適当なものが見当たらず焦るという人もいるでしょう。

 認知症を心配する年ではないものの、記憶力の衰えを実感することがあり、これまで当たり前のようにできていたことができなくなっていくかもしれないと思うと、不安で仕方がないという人もいるでしょう。