それだけに、投手出身の藤川が監督なら、阪神が誰をヘッドコーチにつけるかが興味深い。野球の広い知識と経験を持つ優秀なヘッドをつけないとうまくいかないのではないか。
野球の勝負は7割がた投手で決まる。セ・パ両リーグで監督を務め、3度日本一になった私の経験でも、同じことがいえる。
2023年の阪神も、チーム防御率はリーグトップの2.66。先発陣はリーグナンバーワンの安定感を誇り、村上頌樹、大竹耕太郎、伊藤将司の10勝トリオを生んだ。また島本浩也、加治屋蓮、桐敷拓馬、石井大智など、それほど知られていなかった投手たちをうまく使って救援陣を構築し、最後は35セーブ、防御率1.77の左腕、岩崎優で締めた。
なかでも16年ぶりの10連勝で突っ走った8月は、先発投手を除く救援防御率が1.58だった。
層の厚い投手陣を構築し、それぞれの個性を生かした継投策を展開した岡田の采配は見事だったが、打線や守備位置を固定したのも球界最年長監督らしい戦略だった。
「ショートは8番。打たんでええ」
だが木浪大活躍の嬉しい誤算
報道によると、岡田は就任直後の秋季キャンプで「ショートは8番。打たんでええ」と語ったという。「打たんでええ」はジョークだろうが、まずは守りの要であるショートを固め、投手の前でなんとか出塁して1番・近本近本光司、2番・中野拓夢につないでほしいという計算があったのだろう。
実際に公式戦が始まると、岡田は外野の大砲・佐藤輝明を本来の三塁に固定し、前季ショートで135試合に出場し、打率.276を残した3年目の中野を二塁に移し、前季41試合で打率.204の5年目の強肩、木浪聖也を8番・ショートに定着させた。
一方、優勝決定までの打順を見ると、1・2番は近本・中野、4番は不動の大山悠輔、5番は佐藤。8番は7戦目から最後までほとんど木浪を起用し、「打たんでええ」ショートは打率.267、1本塁打で期待に応えた。
そして木浪は、セ・リーグのCSでも打率5割の大暴れでMVPを勝ち取った。阪神は選手たちが監督の描いた戦略に沿って「守り勝つ野球」を実践したのに対し、他チームが勝手につまずいて“漁夫の利”を得た形だ。