旧ジャニーズ性加害問題が
「会社全体の問題」である理由
具体例で考えてみよう。
例えば、2023年に公的に問題となったジャニーズ事務所の元経営者による性的人権侵害は、行為自体は個人が行ったものだが、単なる個人レベルの問題ではなく、会社全体の問題と捉えられる。その理由は以下のとおりである。
・トップマネジメントの関与と黙認
元経営者が長期間にわたり会社の中心人物として権力を保持していた。また、他の経営陣がその問題を認識していたにもかかわらず、積極的な改善策を講じなかった可能性がきわめて高い。
・長期にわたる問題の継続と隠蔽
被害の報道やうわさが繰り返され、問題が指摘されていたにもかかわらず、内部調査や対応が行われず、組織ぐるみで問題を隠蔽していたとみられる。
・組織の評価・運営体制が助長要因
経営者の「絶対的な権威」が確立しており、内部で異議を唱える文化が欠如していた。また、被害者が声を上げにくい仕組みを組織が放置していた。
・公式ルールの不備と形骸化
内部通報制度やコンプライアンス体制が機能しておらず、長期的に問題が放置されていた。
これらの理由から、ジャニーズ事務所の元経営者による性的人権侵害は、会社全体の問題と判断されるに足るものである。人権方針を明確に宣言している企業が、このような問題企業との取引を停止するのは、当然の措置だったといえる。
しかしながら、旧ジャニーズについては会社(法人)そのものが人権侵害企業に相当しつつも、事業自体が同様の問題を抱えているわけではなかった。問題は旧経営者とそれを黙認した経営陣にあり、事業を行っているタレントや従業員の問題ではない。
したがって、事業を実質的に別法人へ移管すれば、その事業を行う法人は人権侵害企業ではなく、旧ジャニーズと取引を停止した企業も、その新しく事業を移管された企業との取引に対して、それをNGとする理由はないのである(もちろん、新法人において、ガバナンス体制等の組織的対応や同種の問題の予防、または旧法人によって被害者への補償がなされていることが前提である)。