「三高」と「三不」~非婚主義の若者が増えている

 専門家たちは「若者の非婚主義の根本的な原因は、夢を持たなくなったから、将来に希望を見い出せなくなったからだ」と説明。さらに「この傾向を止めるのは難しい」と見ている。

 コロナ禍終息後も中国経済は期待通りに回復せず、深刻な就職難に直面する若者たちの間では、競争社会からの離脱を志向する「寝そべり主義」が広がっている。毎日のように給与カットや解雇のニュースが日常的に報じられ、若者たちは将来への不安が募るばかりだ。

 SNSでは「三高」(高い不動産価格、高い失業率、高い結婚費用)に対して、「三不」(家を買わない、結婚しない、子どもを作らない)で対抗するという考えが広まっている。この「三不」主義は、単なる経済的な理由だけでなく、従来の社会規範や価値観への若者たちの異議申し立ての意味も含んでいる。

 こうした社会現象は、20年後、30年後の中国の人口や雇用、年金などに影響し、未来の国家像に深く関わることであり、政府としては決して看過できない社会課題として危機感を強めている。

結婚・出産の促進が国家的な最優先課題になった

 国務院弁公庁は「生育に優しい社会」の構築を推進する方針を示し、各地方政府に対して「トップ自らが主導し、責任を負う」ことを求めた。これにより、結婚や出産の促進は国家的な最優先課題として位置づけられ、地方政府の役人たちにとっては、結婚率や出産率の向上が自身の「政治生命」を左右する「政治任務」となっている。こうして、中央政府を始め、各地方政府もあの手この手でなんとか婚姻率を上げるべく躍起になり始めた。

 まず、政府は結婚手続きの簡素化を図った。

 例えば、2024年8月に民政部が「婚姻登記条例」を発表。結婚登録時に戸籍簿を提出する義務や、婚姻登録に関する地域管轄の規定を撤廃した。戸籍簿は中国語では「戸口簿」といい、中国の身分証明の根幹をなすもので、出生地に基づく戸籍から作られている。戸口簿は世帯ごとに家族全員の生年月日、出生場所、民族、国籍などが記載されており、国家にとっては個人の定住場所を管理し、戸籍を容易に移動できないようにする重要書類だ。各家庭にとっても重要な書類なので、世帯主が大切に保管していることが多い。

 子どもの結婚に反対する親が戸口簿を渡さず、親に反対されても結婚したくて家から戸口簿を盗み出して婚姻登録をする……というケースはよくあり、ドラマや映画でもそうした描写は少なくなかった。これまで結婚の際には必須だった戸口簿の提出義務が撤廃されたことで、こうした結婚時の障害が一つ減ったことになる。

 また、2024年9月には国の主催で、1万人の合同結婚式を実施。全国合計50の会場で同時に合同結婚式が行われた。北京のメイン会場では75組の新郎新婦が式に参加。中国の伝統的な結婚式のスタイルである「拝堂儀式」で、新郎新婦たちが厳かに「共に人生の困難を乗り越え、互いに寄り添いながら生きていく」と誓う映像がテレビやSNSで流された。