
よりよい生活を求めて中国を脱出することやそうした人々を「潤」(ルン)、中でも日本へやってくる人々を「潤日」(ルンリィー)と呼ぶ。押し寄せる“新移民”潤日は、日本人の子どもたちの受験事情にも影響を及ぼしつつある。科挙制度の昔から都市部に住む中国人は教育熱心であり、「中国の難関大学に入るより、東大のほうがずっと簡単」だからだ。中国人の流入により、東京近郊の中学受験事情がどのように変わりつつあるのか。本記事ではその最新事情を紹介する。(中国・ASEAN専門ジャーナリスト 舛友雄大)
SAPIXの生徒6000人のうち、300~400人は中国人
年々激しさを増す中学受験に、新たなプレイヤーが目立つようになった。中国にルーツを持つ子供たちだ。首都圏で中学受験をリードする存在である大手塾SAPIXでの躍進ぶりがそれを象徴する。
SAPIXは首都圏における中学受験の4大塾(SAPIX、日能研、四谷大塚、早稲田アカデミー)の中でも、難関校の合格者数で群を抜いている。単に問題を解くというよりは、思考力を高める独自のカリキュラムで定評があり、定期的に組分けテストを行うスパルタ教育で知られる。
2022年度までSAPIXに娘を通わせていた、東京城西のある住宅地に在住の中国人ママ、黄麗敏氏(仮名)に話を聞いた。一緒に外を歩いているときに、この近所には特にインテリで教育熱心な家庭が多いと自慢気味に教えてくれた。
「当時SAPIXには1学年あたり6000人を超える生徒がいて、そのうちの300〜400人は中国人でした。最上位のアルファクラスにいたことがある中国人生徒も、私が知る限り60人ほどいます」と、流暢な日本語でそう話す。
なぜ、そんなことがわかるのか。実は、子供をSAPIXに通わせる中国人保護者によるWeChatグループがあり、そこに掲載されたSAPIXのテスト結果を黄氏が独自に集計したのだ。
実際に、小紅書には、SAPIXの成績優秀者表彰状と成績表が数多く投稿されていて、総合100位以内の生徒もちらほらいる。中には総合成績で「6729人中2位」の生徒もいる。さらに別の中国人保護者は、「4年生で取った複数の『学年1位』の記念に」と投稿している。保護者の母語が日本語ではないことを考えれば、驚くべき成績だ。