「たくさんの小麦をほしい」
その一心でサルは賢くなった

 労働が人間たちの主要な活動となったのだ。その代わりに小麦は人間により多くの穀物を与え、それを保存するための機会を与えた。こうして、人間はつねに、いまよりもっと貯蔵できるのではないかと期待するようになっていく。

 人間は、そうやって貯蔵したものを「財産」と呼んだ。またたくまに小麦が先頭に立って人類を教育していったのだ。穀物を交換したり、収穫物を奪うために戦争をしたり、穂を実らせる土地を耕すために川や動物を手なずけたりできる複雑な組織をつくりだせるように。それは、もっぱら小麦を周囲へと広げるためであり、そうしてできた組織は「会社」と名づけられた。小麦がその経営者であるといえる会社である。

 進化は続いた。小麦は、人間が種子を数え、畑を耕すことができる知識を伝えられるようにと、辛抱強く人間に読み書きを教えた。なかには進化論を展開し、人間が小麦を飼いならしたとか、人間が最良のパンを食べるという目的のもとに植物をつくりあげて選別したなどと主張する書物を著す人間まで出現した。

 小麦が人間にそんな甘い幻想を抱かせたのである。自分たちの知性が優れていると確信した人間は、地球上のさらに広い範囲に小麦を広めるため、ますます懸命に働くようになった。おかげで、いまでは毎年5億トンを超える量の小麦が収穫されている。

 実際のところ、小麦と人間のどちらが最初の一歩を踏み出したのかは誰にもわからない。この2つの種はともに進化し、手を取り合って進化の道を一緒にたどってきた。そのおかげで両者ともどんどん進歩していった。もはやお互いなしではやっていけないほどに。

排除すればするほど
小麦化していったライ麦

 ライ麦は内気である。だからといって、見くびってはいけない。その慎ましさは巧妙な戦略にほかならない。ライ麦はパンかごの中ではいつだって招かれざる客なのだ。そして、ライ麦が出現し、地球を制覇してきたのも招かれざる客としてだった。