CX-60の初期開発で追求した「理想」と「現実」

 今回の試乗会でCX-60の車両運動性能開発を担当するエンジニアは、筆者の取材に対して「初期モデルは、(当初描いたCX-60という商品の)理想を追求し過ぎた」と説明した。

 CX-60の理想とは、具体的にどういうことなのか。

 時計の針を、CX-60プロトタイプ試乗会が実施された2022年3月、山口県のマツダ美祢(みね)自動車試験場まで戻してみたい。

山口県美祢自動車試験場で実施された「CX-60プロトタイプ」試乗会の様子山口県美祢自動車試験場で実施された「CX-60プロトタイプ」試乗会の様子 Photo by K.M.

 中型以上のボディサイズを持つSUVにフォーカスする形で考案された、マツダラージ商品群。特徴は、車体前部にエンジンを持つ後輪駆動車(FR)であることだ。

 前輪駆動車(FF)と比べると、FRはエンジンを縦方向に搭載できるため、スポーティーなハンドリングと、エンジンの大型化や電動化への対応がしやすいという、マツダの設計思想に基づく。

 ハンドリングについて、開発担当者は「箸を使うような感覚」と表現した。つまり、ドライバーのハンドル、アクセル、ブレーキの操作がクルマの動きに「感性として直結する」ことを目指した。

 近年、自動車メーカー各社は「意のままに」という表現で、ドライバーの操作とクルマの動きの一体感を目指す開発概念を持つことが増えているが、その中でも以前から「走る歓び」を掲げてきたマツダとしては、マツダ史上での商品の大きな転換期として導入するラージ商品群について、マツダとしての「クルマづくりの理想」を突き詰めた。

 こうして出来上がったCX-60は、全長4740mm×全幅1890mm×全高1685mm、ホイールベース2870mmというボディサイズで、「CX-5」と比べるとかなりガッツリとして押し出し感の強いデザインのクルマとしては、華麗な動きを見せる仕上がりとなった。

 プロトタイプを試乗した美祢自動車試験場はもともと、レーシングサーキットであり、さらにマツダが購入した後の整備も行き届いているため、路面はスムーズだ。また、一般公道を想定した外周路の路面もあまり荒れていなかった。

 むろん、車両開発の段階で、首都高速や一般道路での走行テストは繰り返し行われていたため、路面の段差からの突き上げの強さを含めて、マツダとしてはハンドリングと乗り心地のバランスを十分に理解していたといえる。

CX-60改良前の量産車のリアサスペンションCX-60改良前の量産車のリアサスペンション Photo by K.M.

 だが、現実にはそうしたマツダの理想が市場で受け入れられない場合が多かったということになる。