いったいにノルウェー人は真面目で職人肌の印象がある。あるいは高緯度地方特有の気候がそうさせるのかもしれない。
夏は白夜だが、冬は逆で日中も暗い。
家に招いてくれたある家族の子供たちは、暗い冬は外で遊べないから家の中でひたすら毛鉤を巻き、春の訪れとともに手製の毛鉤でマスを釣るのが楽しみなんだ、と目を輝かせて話してくれた。生まれたときからその環境にいれば、どうしたって忍耐強くなりそうだ。
村のバス停の小屋を見てもそう。すきまなく組まれた見事なログハウスで、屋根の上は草花が植えられて庭園のようになっており、細密画の絵本の家のように愛らしい。公共のバス停に堅牢性だけでなく、繊細な美しさも込めているのだ。
職人気質を感じさせるその仕事ぶりは、パンのきめ細かさと一脈相通じているように見える。
まるで巨大なハエ叩き
本性を現したパタゴニアの暴風
パタゴニアでも非凡な食パンに出会った。
わずかな森林地帯をのぞけば、パタゴニアの大部分は不毛の荒野だ。
灰色の大地に砂利道がまっすぐ一本のびているだけで、1日走ってもほとんど景色が変わらず、おまけにどんな台風も凌駕するような暴風が年がら年中吹いている。
無人地帯が400キロほど続くところがあった。風で進めない日も考慮し、食料と水を5日分積んで荒野に飛び込んでいった。
最初の2日は穏やかな天気だったが、3日目にパタゴニアが本性を現した。
風がジェットエンジンのような轟音と共に吹き荒れ、自転車ごと砂利道の外に弾き出されたり、巨大なハエ叩きでバチンとつぶされるように横倒しになったりする。
そのたびに全身で風にもたれかかるようにして自転車を起こし、なんとかまたがってよろよろ走り始め、そうして何十メートルも行かないうちにまたもやバチンと押し倒される、そんなことを繰り返しながら、大海原のような荒野をのろのろ進んでいた。