「カン違い」社員にカチン!

 結論から言うと、めちゃくちゃ怒られた。相談を伝えただけなので「怒られた」というのも変な話だが、私自身の悩みとも重なる相談内容だっただけに、まるで自分が怒られているように感じられたのだ。

 柳井氏の回答はこうだった。

《若くて、ちょっとできる人は勘違いしやすいのかもしれませんが、個性をだすことと、会社の経営方針に従うことはまったく別のことです。むしろ、その勘違いを指摘して、個性など殺して、「会社のやり方を徹底しなさい」というアドバイスをした上司に出会えたのは素晴らしいことだと、僕は思います》

《というのも、「会社という枠組みの中では自分の個性が発揮できない」と、こぼしている人は、確実に失敗するんです。そして、そんな勘違いを正すことは、上司の務めのひとつだと信じています》

 文章は極めて冷静な筆致で書かれているが、現場での柳井氏の声は明らかに怒気をはらんでいた。サラリーマン社長にはない「何に対しても本気で臨む姿」が柳井氏にはあった。

「こうしたハラハラしたインタビューになると、記事が俄然面白くなる」。先輩編集者には後からそう励まされたものだ。柳井氏が続ける。

「個性を尊重しろというのは…」柳井氏の忠告

《会社をスポーツと置き換えて考えてみるとわかりやすいでしょう。会社の原理原則や経営戦略というのはサッカーなどのチームの基本戦術と同じなんです。個性を尊重しろというのは、サッカーでチームの基本戦術を守らずに勝手にプレーしますと宣言しているのと変わりありません》

《本来、会社に参加するということは、基本的なことは会社の考えどおりにしますということで、誰も個性を発揮してくれとは言いませんね。チームの基本戦術を理解して、取り決めに則ってボールを相手のゴールに入れるというのが、チームとして勝つということ。勝手にドリブルしたり、攻撃ばかりで守備をしないような選手は、いくら身体能力に恵まれていてもチームが強くなるためには必要ないのです》