しかし、こうした流れは「周りの友人はもう内定をもらっている」「すでに進路を決めて、就活を終えている」と焦る学生を増やしていってしまうでしょう。そして早期に動かざるを得ない……と、学生はますます悩みを深めてしまうのではないか。そんな懸念を感じています。

充実した学生時代の経験が
社会人人生の土台を作る

 最終的な納得感や、入社後の勤続意欲といった点から見れば、焦って早期に動くことや意思決定をすることが、必ずしもいい結果につながるとは限りません。

 大切なのは、充実した学生生活を通じて、自分が大事にしている価値観や、譲れない軸を研ぎ澄ませていくこと。さまざまな業界や企業と接点を持ち、リアルな情報に触れられる経験は、就職活動という時期だからこそ手に入れられる特権です。

 そのプロセスを通じて、企業のカルチャーやそこで働く社員、仕事内容に対して共感を得たり、違和感を抱いたりすることで、自分に合った仕事や職場環境はどんなところなのかがだんだんと分かっていくでしょう。

 自分らしい働き方、生き方は何かを理解する上で、学業にとことん向き合ったり課外活動に没頭したりと“良質な学生生活”を送ることもとても重要です。

 前述した大学教員の話のように、ゼミ活動の集大成となる発表会の機会などが面接選考によって失われてしまうことは、そこで得られたかもしれない学生の学びや気づきの大きな機会損失になります。その経験を経て、自分にとって大事な価値観を再認識でき、会社選びの軸がより明確になることもあるからです。

 学生が、「やりきった!」と思える学生生活を送り、就職活動を通じて自分と企業に向き合い納得感のある意思決定をすることは、入社後の定着と活躍にもつながります。学業などを通じて得た学びが、その後も長く続く社会人生活の基盤になっていくことを考えれば、学生が充実した学校生活を送れるように最大限の配慮をすることは、企業に求められる社会的責任の一つではないでしょうか。