世界で「金メダル」への
橋頭堡となるアメリカ市場

 新浪さんは缶チューハイやハイボール缶、缶カクテルなどのRTD市場で世界一を目指すと表明されています。グローバル市場で見ると、清涼飲料ではコカ・コーラ、酒類ではギネスやジョニーウォーカーや、I・W・ハーパーなどのブランドを傘下に持つディアジオという巨人がいます。またアメリカには、ハードセルツァー(フレーバー付きの炭酸アルコール飲料)市場で50%以上のシェアを占めるホワイト・クローを持つマーク・アンソニー・ブランズや、ジャックダニエルのブラウンフォーマンといった強豪もいる。サントリーがRTD市場で「金メダル」を獲得するための課題はどこにあるのでしょうか。

 現在、RTD市場において我々は「銅メダル」の位置にいるといえますが、2030年までに「金メダル」を獲得することを目指しています。そのためには、アメリカ市場での成功が必要不可欠です。アメリカでは若い世代を中心に健康志向が高まり、さまざまなフレーバーが楽しめて価格も手頃なRTDの需要が急速に伸びています。アメリカ市場のこの勢いをしっかりとつかみ、市場を取っていくのが先決です。我々は2024年からアメリカ市場に本格参入しています。2025年には「−196」ブランドを全州へ展開していく予定です。

 アメリカ市場で成功するための関門は、独特の流通システムの攻略です。アメリカRTD市場の約8割は、FMB(flavored malt beverages)と呼ばれるモルトベース、約2割がスピリッツベースと、2つに大別されます。ただし、酒税も流通経路も、州によって異なるため、ベースとなるアルコールの種類によって規模・質の異なる市場が存在し、特性に合った攻め方で攻略していく必要があります。今年は、スピリッツベースのRTD「−196」の強化に加えて、さらにFMBカテゴリーに新ブランド「MARU-HI」を投入します。日本で昔から愛されている柑橘系のすっきりとした味わいと、東京のネオン街をモチーフにしたパッケージが特徴で、カリフォルニア州での発売に続き、2026年には販売州の拡大も予定しています。こうした新たな商習慣は、いままで経験したことのない世界に踏み込んでいく不安と同時に、挑戦心をかき立てられるという側面があります。よって市場開拓やマーケティングだけでなく、商品開発においても常識を覆し、「おもろい」発想から「おもろい」商品をつくっていきたい。その際に強みとなるのが、清涼飲料とお酒の両方で強いブランドを複数持つサントリーならではの事業ポートフォリオです。同じグループ内でこの2つを融合できる強みを持つ食品酒類企業は、世界を見渡してもほとんどありません。スピリッツ単体では、いますぐにジョニーウォーカーのような強力ブランドに勝負を挑むのは難しいかもしれません。しかしRTDに関して言えば、我々がかなわない企業はありません。私たちの独自の優位性を活かすことができれば、アメリカはもちろん、世界で金メダルを獲ることも夢ではないのです。

 その優位性の一つが美味を実現する「創味技術」です。サントリーは、100年を超える洋酒づくりで培った「ものづくりの技術・知見」がありますし、飲料で培った香味づくりのノウハウを保有しています。我々にとって創味技術は、ものづくりの重要なパーツであり、匠の技そのものです。また、グループとしてのノウハウや資産を結集し、ビジネス基盤強化に向けて、グローバルRTD専任の開発・生産部門やマーケティング部門および戦略部門をさらに強化するため、2023年4月には「サントリーRTDカンパニー」を設立しました。さらには、グローバルでのRTDビジネスの成長を加速させるべく、また重要市場であるアメリカでのプレゼンスを強化するため、ニューヨークに拠点を新設しています。そもそもRTDは商品のはやりすたりが速く、トレンドや消費者の嗜好をとらえるのが難しい。それぞれの地域のニーズに合わせたローカル商品の開発がカギを握ります。グローバル共通のブランドポリシーやガイドラインを守ったうえで現地消費者の嗜好に合わせて商品設計し、エリアごとに中味やデザインをローカライゼーションして展開しています。

 日本ではサントリーといえばウイスキー、ビールというイメージが強いかもしれませんが、グローバルではRTDが強いブランドとして認知されるようになりたい。そのために、RTDの強力ブランドの開発はもちろん、それらをより広く認知してもらうキャンペーンを強化していきます。我々の持つ技術力と商品開発力を最大限に活かしながら、アメリカ市場での成功を勝ち取っていくつもりです。

 アメリカ以外の市場でフォーカスしていくのはどの地域でしょうか。たとえば、中国市場はその対象となりうるのかも含めて、今後のグローバル展開について教えてください。

 アメリカと同じようにRTDの消費が急成長しているオセアニアでは、サントリーグローバルスピリッツとサントリー食品インターナショナルとのパートナーシップによって、RTDと清涼飲料とを製造する大規模な工場をオーストラリア東部クイーンズランド州に建設しました。ここからオセアニア地区で販路を拡大する体制を整えています。

 インドには、2024年に現地法人であるサントリーインディアを設立しました。いまやインドの人口は中国を抜いて世界一ですし、経済も急成長している。アフリカや中東、アジアとのつながりが持てる地政学的にも重要な市場です。すでにサントリーグローバルスピリッツが酒類事業を展開していますが、飲料・健康食品でも事業基盤を築くことによってシナジーを発揮しながら、投資やパートナリングを通じて、食品酒類総合企業としてのサントリーグループのプレゼンスを高めていきたいと考えています。もちろん中国市場やASEAN市場も視野に入れています。政治的に緊張が高まる中でも中国という巨大市場に対して常に関心を示し、ビジネス界の対話によりお互いの関係性を維持していくことは重要です。製品の供給を継続するため、現地自治体も含め、中国の消費者と対話を続けていく。当社のウイスキーは、中国の消費者や愛飲家に高く評価されていますが、ベストクオリティの商品を生産するためには十分な時間が必要であり、拙速に中国での展開を進めるつもりはなく、期待を超える高い品質の商品を提供していくことが中国顧客へのメッセージになると考えています。