
トヨタ自動車グループの総合商社、豊田通商が全米最大級の自動車リサイクル企業を9億700万ドル(約1344億円)で買収する。トランプ米政権は鉄鋼とアルミに25%の関税を課し、4月にも自動車への関税率もアップすると表明しているが、これをバネに、トヨタのEV(電気自動車)シフトにも対応できる体制をいまから準備していく。ただ、買収する企業の市場の評価はPBR(株価純資産倍率)でわずか0.6倍。これに2倍のプレミアムを付けた価格で全株を買い取る。高値づかみではないのか。大手商社といえば世界で最も有名な投資家バフェット氏率いるバークシャー・ハサウェイが大手5商社の株を買い増していることが明らかになり、日本株全体の再評価につながったが、豊田通商は業績では6番目でバフェットには買われていない。トランプ大統領の懐に切り込む大型投資は吉と出るか、凶と出るか。連載『クローズアップ商社』の本稿で探った。(ダイヤモンド編集部 金山隆一)
バフェットに株は買ってもらえないが
独自の成長戦略で勝負!
豊田通商が買収するのは1906年の設立で米ナスダック市場に上場しているラディウス・リサイクリング。使用済み自動車から鉄やアルミ、銅などを回収、リサイクルする事業を手掛けており、米国の自動車リサイクル業界ではトップクラスの企業だ。米国やカナダ、プエルトリコに計100カ所超のリサイクル拠点があり、米オレゴン州には電炉も保有している。豊田通商は世界各国でリサイクル事業を展開しており、使用済み自動車の金属を再資源化する技術を持っている。これを使って、買収したラディウスの業績を向上させる狙いだ。
実はラディウスは、2022年8月期は営業利益で2億2590万ドル、当期利益は1億6880万ドルの黒字だったが、その後は2期連続赤字で、24年の8月期は2億9398万ドルの営業赤字、2億6641万ドルの純損失だった。
赤字が続いた理由として豊田通商は「ラディウスが過去に買収した際に発生したのれんの減損が赤字の原因だが、2~3年後の黒字化を見込んでいる」という。しかし、鉄鋼業界に詳しい関係者は、「21~22年は米国の鉄鋼市況が空前の高値を付けていたので、その時期は異例。自動車リサイクル業界は米国のスクラップ価格の変動に業績が左右されやすい」という。市況に振られやすい業界で、事業をどうマネージしていくのか。
豊田通商は新規の投資に対しROIC(投下資本利益率)10%以上を最低基準としており、今回の買収も投資家向け説明会で「10%以上が見込める」とアナリストに説明している。一方で買い取り価格は3月12日の終値に115%のプレミアムを付けた1株30ドル。1ドル148円換算で約1344億円の大型投資だ。マーケットで買えば半値で買えた株をなぜ2倍の値段で買って、投資が回収できるというのか。次ページでその戦略を探った。