伊藤忠商事が、成長投資に巨額の資金を投下し始めた。セブン&アイ・ホールディングスの創業家による買収(MBO)に伊藤忠が出資する方針が明らかになっているが、これに先行してデサントの完全子会社化に向けた追加TOB(株式公開買い付け)に1800億円、ブラジルの鉄鉱石権益の買い増しに1200億円、測量大手パスコを持ち分法適用会社にするために77億円のTOB、川崎重工業子会社のカワサキモータース20%の資本参加に800億円――4件で約4000億円の投資を決めた。セブンのMBOはファミリーマートを子会社に持つ伊藤忠の資本参加が独占禁止法に抵触する可能性も指摘されているが、これが成立しなくとも2年後の連結純利益1兆円に向け、大手商社トップ奪還が射程に入っているようだ。連載『クローズアップ商社』の本稿では、各カンパニーの新規投資が生み出す利益貢献額を試算するとともに、成長投資に失敗しない「鉄の4原則」を明らかにする。(ダイヤモンド編集部 金山隆一)
純利益のわずか4年分で
カワサキモータースに資本参加
「川崎重工はいずれカワサキモータースを切り離し、伊藤忠の子会社になるのではないか」。あるヘッジファンド関係者は、川重の2輪車子会社で米国が主戦場のカワサキモータースに800億円、20%の資本参加を果たした伊藤忠の狙いをこう語る。
伊藤忠は、1960年代からカワサキモータースの欧州における販売代理店に出資してきたが、主戦場である米国での2輪車や4輪バギーの拡販に向け、販売金融を充実させ成長すると判断。一方、川重は、「いすゞや日立建機で米国の販売金融で実績のある伊藤忠に注目した」(伊藤忠関係者)ようだ。
「800億円で20%は、カワサキモータースの企業価値は4000億円と判断したことになる。これはいい値段」(機械アナリスト)。どこがいい値段なのか。カワサキモータースは今期510億円の事業利益を見込んでおり、中期計画が終わる31年3月期に1000億円を目指している。今期の利益の8年分、中期計画のわずか4年分でカワサキの株を取得できたことになるからだ。
前出のアナリストは「米国の販売金融を強化したいがノウハウがない会社から声がかかるのを待って、(案件が出てきたら)まずは20%出資し、業績が上向いて社員の信頼を得たところで出資比率を上げて完全子会社にする。これがいつもの伊藤忠の戦略」とみる。
伊藤忠が新たな会社に資本参加するときにはいつも独自のアプローチがある。カワサキモータースに限らず、最近の成長投資にもその手法が踏襲されている。それは何か。投資を失敗させない四つの鉄則とともに次ページで明らかにする。