「自己カニバリゼーション恐怖症」が
企業の競争力を奪う
大企業が社内ガラパゴス化するもう1つの大きな要因に、「自己カニバリゼーション恐怖症」も挙げられます。「自己カニバリゼーション恐怖症」とは、新規プロダクトが既存事業を食ってしまうのではないかという過度な恐れです。その結果、競争力のある市場への進出をためらい、有望な新規プロダクトが社内で抑え込まれてしまいます。
多くの企業では新規プロダクト立ち上げ時に、既存事業への影響が最優先され、新しい取り組みが制限されます。例えば、フィルムカメラで世界をリードしていたコダックは、デジタルカメラ技術においても先駆者だったのですが、既存のフィルムビジネスを守るためにデジタル化への移行が遅れ、競争力を失いました。
「イノベーションのジレンマ」の提唱者として知られ、2020年に惜しまれながら亡くなったハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・クリステンセン教授は、既存の市場や産業構造を大きく変革するような破壊的技術に大企業が適応する難しさについて、次のように述べています。
「単一組織で、主力市場の競争力を保ちながら破壊的技術を追求することは不可能である」「主力事業の競争力を維持したまま、同時に破壊的技術も追求しようとする。このような努力がめったに成功しないことは、過去の例が物語っている」
多くの企業は新技術の重要性を理解しつつも既存の事業構造に取り込もうとし、中途半端な製品しか生み出せません。すでに確立されたビジネスモデルが強すぎて、新しい技術を取り入れた製品を市場に投入する際に、既存の事業との軋轢を避けようとするからです。その結果、革新的な技術を活かしきれず、より柔軟なスタートアップ企業に市場を奪われてしまうのです。
市場の変化は不可避です。内部のカニバリゼーションを避けた結果、外部から市場を奪われるリスクがあります。Netflixとブロックバスターの例はその典型です。かつてレンタルビデオチェーンとして成功していたブロックバスターは、Netflixのサブスクリプションモデルが主流になると予測しながらも、自社のレンタルビジネスを守るためにデジタルシフトに踏み切れず、市場を失い、消滅してしまいました。