それは今回の「リセッ豆乳」という戦略にあります。「何かを代替する」というこれまでの動物性に対するアンチテーゼとしての植物性ではなく、動物性を悪として否定せず、「動物性たんぱく質と植物性たんぱく質両方をバランスよく取る」ことで、栄養バランスをととのえ(整え)、心身のバランスもととのえる(調える)ことが大事(ととのえる→リセット)という新しい視点から生活者に気づきを与えられたことにあると考えられます。

豆乳の「再価値化」につながった
日本人の食生活の特徴とは?

 そもそも我々日本人は、アメリカ人に比べて肉などの動物性食材の摂取量は多くないので、量を減らす対象ではなく、むしろ焼肉やステーキはご褒美的なご馳走です。

 それを「動物性は地球環境や動物福祉のために食べるな」と言われても、多くの人にはピンときません。これが日本では植物性食品の市場が伸びない、最大にしてシンプルな理由でしょう。

 一方で、動物性を取り過ぎるのは自分の健康には良くないという潜在的な意識は誰もが感じています。そこを“バランス”という概念のもと「動物性を食べている自分を否定するのではなく肯定してあげた上で、豆乳でリセットする」という受け入れやすいアプローチで生活者のパーセプションを変えることができたのです。

 動物性・植物性を意識しているか?バランスを取っているか?という議題提起を行い、他の植物性タンパク質食品との優位性(=含有量が多い、そのまま飲める・汎用性がある、手軽に手に入れられる)をベースに豆乳の再価値化を行なったことにより、我慢せず、バランスの取れた食生活が心身の健康につながる、「生活者の個々の幸せ(ウェルビーイング)」に寄与するイメージを持たせることに成功しました。

 食品に限らず、多くの業界で、企業が社会の地球環境へ配慮する機運の高まりにより、エコ仕様といったSDGsの観点を商品開発などに取り入れていますが、ビジネスの成長戦略につなげることに苦慮しているのが日本の現状です。物価高や賃金上昇の低迷に苦しむ経済状況にある日本において、やはり高いコストを受け入れて地球環境のために自分自身の幸せを我慢しろというアプローチは生活者になかなか受け入れられません。

 今の時代だからこそ、生活者視点での健康とおいしさとサステナビリティが両立された“ウェルビーイング”というコンセプトのマーケティングが求められているのではないでしょうか?

(インテグレート代表取締役CEO 藤田康人)