今、小川さんには、付き合っているパートナーがいる。知人主催の食事会で出会った、2歳年上でバツイチの男性だ。彼は30代後半で離婚しており、7歳になる娘がいる。娘は元妻と一緒に暮らしており、彼は一人暮らしだ。私立高校の教師をしている。
付き合って半年ほど経ち、結婚の話が出始めた頃、小川さんはパートナーに、卵子凍結していることを話した。妊娠・出産を望むなら、急がないといけない年齢に来ていること。できることなら、子どもを産んでみたい“かもしれない”こと。後から後悔するのは嫌だなと思っていること。
話しているうちに、いろんな思いが去来して、自然と涙がこぼれた。その時、「あ、私って、やっぱり子どもがほしかったんだ」と思った。
ただ、彼は凍結卵子を使うことには強い抵抗感を示した。この時、彼が生殖医療に対して抵抗感を持つタイプであることを、初めて知ったという。人の命は、自然な営みの中で授かるべきもの。不自然なことをすれば、どこかで無理が出てくるのではないか――それが彼の“抵抗感”の理由だった。
卵子凍結をした時点では、パートナーがいなかった。むしろパートナーがいないから卵子凍結したとも言える。凍結した卵子を使うのは、「この人と子どもを持ちたい」と思えるパートナーが現れ、互いに合意に至った時――。だがパートナーと出会っても、その“合意”を得るのが難しい場合もある。
「凍結卵子を使っての妊娠・出産は、パートナーにとっても、心の準備と整理に、ある程度、時間が必要かもしれません」
パートナーと出会い、子どもを持とうとする合意が生まれた段階で、新たに生じた葛藤。これもまた、卵子凍結が持つ一つの側面と言えそうだ。
1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

定価1,980円(朝日新聞出版)
※AERA DIGITALより転載