ヤムおじさんの達観
「人間なんておかしいなあ」

 嵩の父も死んだと聞いたおじさん。幼い子どもがふたり、父親を亡くしている状況を前に、「たったひとりで生まれてきてたったひとりで死んでいく 人間ってそういうものだよ」と「人間なんておかしいなあ」と語る。過剰な憐憫の情を見せないところがむしろいい。

 ヤムおじさんのこの達観は、いったいどういう生き方から獲得したものなのだろう。旅をしながらこういう境地にたどりついたのだろうか。

 このセリフは、やなせたかしの詩から引用しているものであろう。そもそもサブタイトル「人間なんてさみしいね」もやなせの詩集「人間なんてさびしいね」から取ったものであるのは明白だ。「何のために生まれてきたがやろ」は、ずばり「アンパンマンのマーチ」の歌詞にもその問いがあるし、『何のために生まれてきたの?』というやなせの書籍もある。

 さらに、寛(竹野内豊)が嵩に語る「生きちゅうき悲しいがや。生きちゅうき苦しいがや。生きちゅうきいつか元気になってきっと笑える日がくるがや」。これは、やなせたかしが作詞した『手のひらを太陽に』の歌詞を思わせる。

 第4回の羽多子(江口のりこ)がのぶに言い聞かせた「のぶ なんぼ自分が正しい思いたち(思っても) 乱暴はいかん。痛めつけた相手に恨みが残るだけやき 恨みは恨みしか生まんがや」という言葉といい、良い言葉も連打が過ぎると、いささかお説教じみて感じなくもない。

 だが、第1週は、〈やなせたかしとその妻・暢をモデルにした物語がはじまります。やなせさんのエッセンスがたっぷり詰まっていますよ〉という作り手からのごあいさつのようなものだろう。そう思えば、しっかりした序章である。

 どんなに言葉を尽くしても、我慢しても、家族を失った悲しみが抑えきれるものではない。釜次(吉田鋼太郎)は息子の墓石を刻むことになるなんてと石に頭を突っ伏す。

 のぶは汽笛の音に突き動かされ、駅へと全速力で走る。駅にお父さんが帰ってくるんじゃないかと思って、父の姿を追い求めるが、現れるはずもなく……。