トランプ氏が理解すべきこと
すぐに製造業は米国に回帰しない

 カナダのカーニー首相は、「蜜月は終わった」と言い放ち、米国に対する信頼が棄損されたとの見解を表明。米国に対する報復措置を検討している。今後の状況次第で、カナダは米国向けの電力供給を絞り、価格を引き上げる可能性もある。貿易戦争のリスクがさまざまなところで現実味を帯びている。

 その一方で、現実的にEUやカナダが、トランプ関税に真正面から対抗するのは難しいとの見方もある。欧州では、対米報復措置を取ると、さらなる追加関税や防衛費負担の引き上げ圧力につながり、かえって域内経済にマイナスだと考える指摘も多い。

 ただ、グローバル化が進んだ世界において、どちらかの言い分を一方的に受け入れることはできない。米国が強引に自国主義を貫こうとすれば、相手国も対抗措置を打ち出さざるを得ない。米国にとっても相手国にとっても、報復措置は経済を痛めつける可能性が非常に高い。

 トランプ氏が政策リスクの重大さを本当に理解すれば、事態は改善に向かう可能性がありそうだが、現時点でそうした見方は楽観的過ぎる。トランプ氏は関税で自動車の価格が上昇しても「一向に構わない」と述べている。

 トランプ氏は、輸入車の値段が上がれば、米国製の自動車が売れると思っているのだろうか。関税引き上げにより、すぐに製造業は米国に回帰し、「MAGA=米国を再び偉大に」の公約を達成できると思い込んでいるのだろう。

 しかし、現実はそれほど簡単ではない。米国で企業が新しい工場を建設し、必要なサプライチェーンを整備するには時間とコストがかかる。半導体や医薬品のように、超高純度の部材・素材や精密な製造設備が必要な品目はなおさらだ。米国での人手不足、移民の強制送還も企業の足かせになるかもしれない。

 自動車関税を発表したことで、トランプ氏の予測困難さ、先行きへの懸念が一段と上昇した。投資家や企業経営者にとって、中長期の視点でリスクを取るのがいっそう難しくなったはずだ。それは、経済活動のダイナミズムを棄損することになる。

 トランプ氏の政策は、自国重視、保護主義的な通商・産業政策の国が増える要因になるだろう。政治・経済・安全保障に重大なマイナスのインパクトをもたらすことを、トランプ氏自身に一刻も早く理解してほしいものだ。