マネーがあふれ返ったことで、資産価値も上がりGDPも増えたのだが、米国内では日本人が想像できないような貧富の格差が生じている。日本人は、米国のほんの一部しか知らない。ニューヨークやロサンゼルスなど大都市とは違う景色が、特に米国中西部に存在する。これらの地域では、製造業の空洞化に伴って地域経済が衰退し、ドラッグ依存や家庭崩壊といった社会問題が深刻化している。
『Hillbilly Elegy』(※)を著したJ.D.ヴァンス副大統領が描いたように、こうした地域の白人労働者層は、閉塞感と制度不信を長年にわたって抱えてきた。(※邦題は『ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち』光文社)
トランプ政権による関税引き上げの対象は185カ国に及ぶ。高率の関税を広範囲にかける意味とは、すなわちグローバルに広がっていったドルを吸収することだ。各国がこの関税分を負担し、そのカネは米政府の税収となる。財政出動の逆なので、世界のマネーの量は減り、それによって資産価格が下落することになる。
これまで自由貿易、グローバリゼーションで繁栄してきた企業経営者、それを前提に政策立案してきた政策担当者は、今どう考えているのだろう。ほとんどの人はトランプがおかしい、こんな関税政策を進めることはできるはずがない、情勢を見極めながら粘り強く交渉していくしかない、などと思っていることだろう。
トランプ大統領も、関税政策で自国経済が混乱し、株価がずっと下がり続けていいとは思っていないだろう。どこかで次の手を打つはずだが、どの程度の景況感や株価水準で手を打つか?それが従来の価値観では予想できないことが、この問題の怖さでもある。
もしトランプが正常で戦略的な狙いを持っているなら、高関税で得た税収や、同時発生している米金利低下による米国債の借り換え費の負担減は、次に中間層向けに財政出動する際の原資になる。そして大幅な資産価格の下落は、トランプ支持の富裕層にとって、優良企業を安く買えるチャンスとなる。