長野氏が言及した「『アナウンサーが脆弱な立場にあったのではないか』という指摘」は、報告書の後半にある「アナウンサーの立場の脆弱性」という項目のことだろう。
ここで指摘されているのは、一社員でありながらタレントと同様に画面に出ることが多いアナウンサーには一定のリスクがあることや、起用権限のあるプロデューサーとの間に権力格差が生じる可能性があること、性別・年齢・容姿など仕事の能力以外で着目して誘いを受けやすいといった、「女子アナウンサー」である属性ゆえのハラスメントが起こりやすい事実である。
指摘されているのは
「アナウンサーの立場の脆弱性」
長野氏や宮根氏が意図的に無視しているのか無自覚なのかわからないのだが、ここで指摘されているのは、個々のアナウンサーの資質や性格が被害を招いているという話では決してなく、組織構造の中で「アナウンサー」がハラスメントなどの被害に遭いやすくなってしまっている実態である。
この章のタイトルは「アナウンサーの脆弱性」ではなく「アナウンサーの立場の脆弱性」だ。組織の体質がアナウンサーの立場を構造的に脆弱にしている可能性への的確な指摘である。
これだけ詳細に構造自体に問題提起がなされているのに、なぜかわざわざ個々人の資質に言及しているから、話がズレているのである。
組織内でのハラスメントとは、個人がそれぞれの工夫で対処して乗り切ればそれでいいというものではない。
誰かがセクハラを受け流したとしても、ハラスメントの加害者は、より断りづらい相手を狙ったり、より断りづらい状況を作ったりするだけである。ハラスメントが起こりやすい構造や、声を上げづらい構造自体を変えていかなければならない。そのためにも、トップ層が「ボーイズクラブ」と言われるような同じ性別・年代で固められている組織は危険なのだ。