それはそうと、「隠していると、それだけ恋の炎は熱くなる」をラテン語さんが選んだのはちょっと気になりますね。
ラテン語 どうしても内に秘めたるものというか、そういうものを触れずにおこう、口に出さないでおこうと思えば思うほど、それに思考が駆られてしまうのかなと。
オウィディウス『変身物語』は
ロミオとジュリエットの原型
ヤマザキ 確かに恋に限らず、秘密なんかもそうですね。漏らしてはいけない、と言われると、逆に誰かに言いたくてしょうがなくなる、みたいなことはありますものね。隠し事にまつわる人間の性質をよく表していると思います。
ラテン語さんの人間性がだんだんよく分かってきたような気がします。怒りも、溜めておくんだけど溜めておく分だけ、自分のなかで見返してやるエネルギーに繋がるとおっしゃっていたのと、恋愛も同じことなんでしょうね。
ところで「隠していると、それだけ恋の炎は熱くなる」は、何かの引用ですかね?

ヤマザキマリ・ラテン語さん 著
ラテン語 オウィディウスの『変身物語』(注6)からの一節です。2人は両想いだけれど、親たちが反対していて、なかなか結ばれない。そういうシチュエーションです。
ヤマザキ なるほど、ロミオとジュリエット的な(注7)、要するに、規制された恋ということですね。本人たち同士は良くても家族が許さない、とかそういったことは古代ローマ時代もあったでしょうから。友人の妻を好きになっちゃった、というのも当てはまりますね。
こうした奔放な恋愛事情があらわになった言葉に出合うと、ローマ時代の人々がキリスト教のような宗教の倫理の力を借りずとも、混乱をきたさないように、いかに自らをコントロールしようとしていたかが分かります。
恋愛感情を野放しにすると大変な混乱が発生することが分かっていたから、問題を回避するためにこういう本を読むことで自制を図ったり、自らを慰めたりしていたのでしょう。
注7 シェイクスピアの戯曲。1595年頃成立。イタリアの仇敵同士の家に生まれたロミオとジュリエットの悲恋を描く。