儲かる農業2025 日本の夜明け#19東京・大田市場で行われる競り(2012年08月23日撮影) Photo:JIJI

青果物卸売り最大手の東京青果が揺れている。同社を25年以上にわたり牛耳ってきた川田一光会長や、息子の川田光太社長らの退任を求め、筆頭株主の東京促成青果が株主提案を行ったのだ。特集『儲かる農業2025 日本の夜明け』の#19では、川田親子の長期独裁を可能にしてきた株式の持ち合いの実態を解明するとともに、両社の確執の端緒となった35年前の東京青果トップ解任騒動の詳細を明らかにする。(ダイヤモンド編集部副編集長 千本木啓文)

東京青果の“親子独裁”を可能にしてきた
「株式持ち合い」を徹底解明

 東京青果は、日本最大の青果市場、東京都の大田市場における入荷量と総売上額の80%超を占める青果卸のガリバーである。野菜や果物の値上がりで、業績は好調。事実上、無借金経営を実現するなど財務状況も盤石だ。

 ところが、である。同社は近年、役員による横領疑惑、セクハラなどの不祥事が相次ぎ、物流施設の賃貸を巡り独占禁止法違反の疑いも指摘されている。こうしたガバナンス不全の要因とみられるのが、川田一光会長、川田光太社長の親子による25年以上にわたる「独裁体制」だ(詳細は本特集の#10『【独自】デンソーが提案した「農産物流通のDX」が拒否され卸売市場が危機!大田市場を牛耳る東京青果の深刻なガバナンス問題』参照)。

 本来、青果流通のデジタル化や需要に基づく農産物の生産による農業振興などをリードすべき東京青果の体たらくに、筆頭株主である東京促成青果がNoを突き付けた。3月24日、東京青果に株主提案を提出したのだ。

 東京促成青果は株主提案の中で、「創業家でもない川田家による長期支配体制の下で、農業・食品流通業の発展につながるDX(デジタルトランスフォーメーション)などの前向きな投資は行わず、いまだに伝票と各部署での手入力という非効率な業務運営が行われています」と東京青果の現経営陣を批判した。

 株主提案では、川田親子を含む5人の東京青果取締役の退任を要求。社外取締役が過半を占める取締役8人の選任を求めた。社外取締役の候補者には、木内博一・和郷代表取締役、奥原正明・元農水省事務次官、三輪泰史・日本総合研究所創発戦略センターチーフスペシャリスト、加藤百合子・エムスクエア・ラボ代表取締役CEO(最高経営責任者)、菅原清暁弁護士が名を連ねた。

 株主提案はこの他、自社株買い(総額45億円、1株3000円で150万株)や、1株当たり130円の配当などを求めている。

 こうした要求に対し、東京青果は徹底抗戦の構えで、株主提案の対案となる会社提案を検討している。

 東京青果と東京促成青果の対立は、6月上旬開催予定の株主総会に向けて、委任状争奪戦(プロキシーファイト)の様相を呈しつつある。

 次ページでは、東京青果を支配してきた川田親子の力の源泉となってきた株式の持ち合いの実態を解明する。また、川田家と東京促成青果を経営する大竹家の確執の端緒となった1990年の東京青果トップの「横領疑惑」を巡る解任劇の詳細を明らかにする。