JA陥落 農業沸騰#3Photo:JIJI,Kevin Kobs/gettyimages,da-kuk/gettyimages

保険営業で全国トップ表彰を5回受けた農協職員が、2019年に長崎県下の海で死亡した。共済金の巨額不正流用が発覚した直後だった。不正は組織ぐるみだったとみられるが、JAグループの上部団体は地域農協に責任を押し付け「知らぬ存ぜぬ」で幕引きを図ろうとしている。特集『JA陥落 農業沸騰』(全21回)の#3では、JA対馬の闇に迫る。(ダイヤモンド編集部 千本木啓文)

知らぬ存ぜぬの上部団体に
JA対馬関係者から怒りの声

 2019年2月25日の朝9時ごろ、長崎県対馬市峰町の入り江に白い軽自動車が転落した。数隻の漁船が係留されているだけの小さな船着き場は騒然となった。

「早く出て、上がってこい」

 近隣住民が駆け付け、冷たい海に沈みつつある車に向かって叫んだが、車のドアは開かぬまま、ゆっくりと海にのみ込まれた。

 数時間後に車は引き揚げられ、車内にいた男性の死亡が確認された。

 男性はJA対馬のエース職員(44歳。以下、当該職員)だった。保険金の不正流用の内部通報があり、当該職員への事情聴取が行われた直後の出来事だった。

 この事件について他県の農協関係者は「日本の端で起きた特殊事例だ」「農協は、当該職員を刑事告訴して幕引きを図るだろう。過去の例でもそうだった」などと“終わった”事件であるかのように話すが、それはとんでもないことである。

 事件の背景には、地域の農協が上部団体の利益のために酷使される問題や、農協が共済を推進し続けなければ経営が成り立たない金融依存、不祥事の責任追及において農協の役職員だけが処分されるガバナンス不全――といったJAグループの本質的な問題があるからだ。

 取材で見えてきたJA対馬と上部団体の「闇」とは……。