そんなことをしている間に明日のツアーに決まった添乗員から電話が入る。明日のことをいろいろ聞かれて、それに答えた。

 そうして、やがて今夜のホテルに着く。フロントで鍵をもらって参加者たちは部屋へと向かった。それから私はフロントで例の問題なる料金を払った。

 おそらく旅行会社は私のこのホテルの宿泊料、そして明日の添乗代金、その他もろもろを先ほどの差額でまかなうのであろう。まったく、しっかりしていることよ。

タダで旅行できると思ったら…
まさかの宝石店で1時間半!

 旅行業界は世の中が平和な時に栄える。逆にいうと世の平安が崩れた時にはガタガタになってしまう。最近では2020年から新型コロナウイルスが蔓延した折が、もう悲惨もいいところであった。

 それ以前はというと、2011年の東日本大震災が起きた頃である。この時には東北地方が被災地であった。そして、それ以外の地方でも自粛ムードがいっきょに広がって旅行どころではない雰囲気であった。

 そのような時に派遣会社から、「買い物ツアーの仕事なら、いくらでもありますよ」と言われた。買い物というのは宝石のことである。

 宝石店なら普通のツアーでも行くではないか。宝石店がメインといっても、それほど普通のツアーと変わらないのではと気軽に引き受けることにした。

 ところが普通のツアーの宝石店は滞在時間が40分ほど。観光地や土産物店などをめぐる中に、ぽつんと1軒だけ宝石店が入っているという按配なのだ。

 しかし、今回の宝石商のツアーは、そこだけで何と1時間半もいる。宝石店でのショッピングこそがツアーのメインとなっているのだ。

 ところが、である。肝心のツアー代金は必要なし。タダなのである。これは旅行する側としても、ひじょうに悩ましいのでは。

 その買い物ツアーの概要は以下の通り。出発地から山梨へと赴く。メインの宝石店をはじめ、3軒ほどの土産物店に立ち寄る。

 季節を代表する観光スポットにも1カ所は立ち寄る。たとえば桃やブドウの時期には桃狩りやブドウ狩りといった具合だ。

 そして昼食がまたデラックスなのだ。昼食の格でいえば、料金を支払う旅行会社のツアーより、むしろランクアップしている。

 さて、問題は宝石店である。まずは30分ほど店のスタッフから宝石の説明がある。これがまたユーモアに富んだおしゃべりで、その洗練された話術は見事というほかない。

 そうして残りの1時間ほどが買い物タイムとなる。もちろん参加者のほとんどは宝石などに関心がない。だから暇な時間となってしまうのだが。

 その間、バスは宝石店の裏側に移動する。参加者からは見えない場所にこっそり停まっているのだ。いうまでもなく店側の指示で、だ。