話は突如、「マスクの哲学」の話へ

マスクは横を向いたり目が宙をさまようことが増えてきたようだ。

話に飽きてきたのかもしれない。マークにはそう感じられたのだが、テスラやスペースXと同じようにツイッターもCEOを務めるつもりかと尋ねられると、マスクは、長広舌と表現すべきものに突入した。

その話を聞いていると、さっきのは、飽きてきたのではなく、レイオフや広告、政治、モデレーションなどの俗事はもういいじゃないかとなんとなく言いたくなっていた、いや、もしかすると言いたくてしかたなくなっていたのではないだろうかと思えた。

「すべての源となる哲学が私にはあります。いわゆる意識の広がりや規模、寿命を拡張できる可能性が一番大きくなる方策を取るべきなんです。

つまり、文明レベルでものごとを改善できそうな方策はどれなのか、文明の寿命を延ばせそうな方策はどれなのかということです」

詩的な言葉による重い話だ。マークは、思わず姿勢を正していた。会社でこんな話が出てくるとは思わなかった。パラグがこんな話をすることはありえない。ジャックなら似たような考えを持っているかもしれないが、こういう話を全社集会でしたりしない。しかも、大勢クビにするかもと匂わせた直後だぞ。
話が続く。

「我々の文明は、いつか最後の日を迎えるわけですが、これをできるかぎり長続きさせようではありませんか。宇宙の真理を理解できればすばらしい。

我々はなぜここにいるのか。命にはどういう意味があるのか。どこでなにが起きているのか。我々はどこから来たのか。ほかの星系へ行き、我々以外の文明を探すことはできるのか。
5億年前とかに存在したけど死に絶えた一惑星文明がたくさんあるのかもしれません。

我々の文明は文字の発明からここまで5000年ほどですが、こんなの一瞬です。

地球ができてからいままで45億年くらいですからね。文字の発明をスタートとする文明の歴史なんて、火花にすぎないんですよ。

ですから我々は、その火花を大事に育て、できれば長く燃える炎にするべく、やれることはなんでもしなければならないのです」

ぶっ飛んだ話に度肝を抜かれる社員

目がくぎづけになった。ウェブ会議だとは思えない。

金ぴかの会議室だかカフェテリアだか、いやもしかすると星系間宇宙船のコックピットかもしれないものを背景に、真っ白なシャツのマスクが映っている四角の四辺が、四角い境界線がぼやけ、あるのかないのかわからなくなってしまった。

なんなんだ、いったい。スラックはどうなっているんだろう。自分と同じようにみんなも、この展開に度肝を抜かれているのだろうか。気になる。でも目が離せない。

レスリーは、マークと同じくらいびっくりしているようだ。それでもなんとか、話をツイッターに戻そうとした。

「こういうことを申し上げなければならなくなるとは思いもしなかったのですが、これを宇宙人からツイッターに、え~、つまり話を戻していただけますか?」

「いや、別に宇宙人だと言ってるわけではないのですが、でも宇宙人ですね」

マスクがボケをかます。レスリーはどう問いを投げればいいかとまごついているが、マスクは、どう見ても絶好調である。

「宇宙人の件で人に嫌がらせをするのはやめさせなければなりません。念のため申し上げておくと、宇宙人がいる証拠を見たことはありません。これ、よくきかれるんですよね。で、それについては……」