地方移住は“不便さ”こそが
大きな魅力になる

 僕ら家族は数年前までアメリカ・ロサンゼルスの中心地で暮らしていました。アメリカは物騒な銃社会です。スーパーに行った翌日にそのスーパーで銃撃戦が起きたとニュースで見たときはゾッとしました。そして貧富の差が著しく、道にはホームレスがあふれ、窃盗や強盗が頻繁に起きます。日中であっても子どもをひとりで出歩かせるわけにはいきません。いつ誘拐されてもおかしくないからです。普通に生きていてスマートフォンにアンバーアラート(緊急通知)が届きます。「〇〇通りで誘拐が起こりました。気をつけてください」と。そんな物騒な世界が普通にあります。

 ですから、日本に住んでいる以上は、都会だろうと地方だろうと、どこでも「勝ち組」です。

 僕ら家族はいま田舎町で暮らしています。

 ではどうしてここに移り住むことにしたのか。理由はシンプル。いちど訪れてみて、心がときめいたからです。それ以外の深い理由はありません。

 人混みとは無縁。歩いていると鳥のさえずりが聞こえてくる。豊かな自然があり、豊かな食べ物がある。そしてなにより町が醸し出す雰囲気がとても良かった。

 働くぶんにはたしかに都会のほうが便利だと思います。そこには多くの出会いがあります。当然そのぶんビジネスチャンスも拡がるでしょう。

 でもいまやリモートでなんでもできる時代になりました。そしてなにより自分の時間をしっかりキープするには、いくらか不便な場所のほうが好都合なのです。

 都会に住んでいたころは会合のたぐいにしょっちゅう顔を出していました。ウーバー(もしくはタクシー)を使えばすぐに会合場所に行けた。

 でもいまはかつてのように無暗に動くことはありません。目的地にたどり着くのには時間がかかります。ですから、なにか誘いがあっても「それは本当に必要?心がときめくか?」と考えるようになった。

 移動に制限がかかる状況だからこそ、以前よりも自分らしい選択をすることができているのです。地方暮らしには目には見えないたくさんの効用がある。不便さこそが、時として大きな魅力でもあるのです。