大阪の都市開発は、ついに一巡した
維新の会が大阪で選挙に強い理由の一つに、彼らが首長になった後、目に見えて大阪の都市開発が進んだことが挙げられる。屋台で覚醒剤が売られていたほど治安の悪かった天王寺公園は、「てんしば」の愛称で親しまれる小ぎれいな都市公園へと生まれ変わった。ホームレスだらけだった大阪城公園にも商業施設が誕生し、インバウンドで賑わっている。一等地である梅田エリアは、JRのヤード跡地がグランフロント大阪、グラングリーン大阪へ変わった。
ただし、これらは維新の会のおかげで行政が良くなったからというわけではない。単に以前から市内の容積率が緩和されたこと、だぶついた投資マネーが東京や中国から大阪に流れたことなどが理由だ。
大阪では梅田で大型再開発が進むと同時に、市内中心部の古い中小ビルがホテルやマンションへと姿を変え、その古いビルに入っていたテナントが一等地の再開発ビルへと移り、床を埋める循環が続いている。大阪市内の不動産賃料は一貫して値上がりし、マンションの相場も急上昇している。
ただし、油断は禁物だ。大阪が、東京とは決定的に違う点がある。たくさんのオフィス床を必要とする企業が誕生してもいないし、都市圏として人口が増えているわけでもないことだ。
ビジネス地区におけるオフィスの賃貸面積は、ほぼ横ばいで推移していることから、オフィスの玉突きが主な需要であると裏付けされる。そして梅田で最後の大型開発と言われる「KITTE大阪」と「イノゲート大阪」が完成したが、その次はもうないと言われている。ついに一巡したのだ。
大阪の都市開発に投資マネーを呼び込む「次のタマ」は何かないものか――。いや、行政としては是が非でも欲しいはずだ。そこで焦点を当てたのが、埋め立て地・夢洲(ゆめしま)なのである。
夢洲は大阪市内のごみを埋め立てる海上処分場で、いつの間にか「負の遺産」と呼ばれるようになった(そもそも負の遺産は、夢洲手前の大阪南港・咲洲で、市が建設したビル群を指していたのだが)。日本における万博の候補地ではなかったこの地で、万博開催を主張したのは当時の松井大阪市長である。埋立地ゆえ、土地自体には利権など全くない。ここに、大阪の新たな都市開発の成功事例をつくろうとの狙いを定めた。
以前の市政では、大阪南港エリアの開発が大赤字になり大失敗している。こうしたやり方を批判し、自民党から飛び出して結党したのが維新の会だ。その維新が夢洲に場所を変え、ベイエリア開発を成功に導く――。目標イメージはシンガポールのマリーナベイ・サンズ、都市型カジノIR(統合リゾート)といったところか。最近は、「カジノを建てるために万博を開催した」などと指摘されることが多いが、それはちょっと間違いで、正確には「夢洲のために万博とカジノをやる」だと筆者は思う。