アレックス・サヴォロンコフ(編集部注/ラトビア生まれの科学者。バイオテクノロジー、再生医療、高齢化経済学を専門とする。バイオメディカルの進歩が世界経済をどのように変革するかなど、多数の論文や書籍を出版)は、105歳という数字を挙げる。

 ジョナサン・ワイナー(編集部注/生物学に基づいたノンフィクション本を執筆するアメリカ人作家。特にガラパゴス諸島の進化、遺伝学、環境に焦点を当てている)は、より大胆に、1000年という数字を掲げている。

 意欲的な不老長寿プロジェクトとしてもっともよく知られているのは、イギリスの科学者オーブリー・ド・グレイが提唱するSENS計画だ。これは、老化を引き起こす7つの要因をバイオテクノロジーによって解消し、老化を克服するという計画だ。

 たとえば、7つの要因の1つとして、細胞外蓄積物の増加というものがある。脳の神経細胞の周辺にアミロイドというタンパク質が蓄積し、それがアルツハイマー病の原因となるのはその一例だ。この現象にたいしては、化学的な方法によって蓄積物を除去することが可能だとド・グレイは主張する。この計画が実現すれば、不老が現実のものとなると彼は考える。

 もちろん、病気や怪我によって死ぬことはありうるので、不死になるわけではない。この計画によって実現できるのは、あくまでも不老長寿だ。とはいえ、老いることがないというのは、われわれにとって十分驚異的な事態だ(注1)。

不老長寿テクノロジーが
社会に与えるメリット

 SENS計画に含まれるもの以外にも、不老長寿テクノロジーにはさまざまなものがある。

 たとえば、テロメアの短縮によって細胞分裂が止まってしまうという問題は、人工的にテロメアを延長することで克服可能だと考える人もいる。

 また、ES細胞やiPS細胞から人体のパーツを作成するという再生医療の技術が発展すれば、加齢によって機能が低下した臓器を人工的に作成した臓器に置き換えることが可能になるかもしれない。また、身体部位のなかには、機械によって置き換えることが可能なものもある。人工心臓などはすでに実用化されている。

注1 SENS計画を実現していくためにはさまざまな研究が必要で、それには多額の資金が必要だ。ド・グレイは、SENS研究財団という団体を設立し、SENS計画の広報と資金集めを積極的に行っている。とはいえ、2014年の寄付額はおよそ2万ドルで、計画の実現にはまだまだ不十分だ。ド・グレイによれば、現在の医学研究やバイオテクノロジー研究は病気の治療や予防に主眼を置いており、廊下そのものの防止は後回しにされがちで、それゆえSENS計画への人びとの関心はそれほど高くないのだという。