しかし、不老長寿社会にはさまざまなデメリットも考えられる。まず考えられるのは、人口増加だ。平均寿命が倍になれば、単純に考えて、世界の人口は倍になる。そうなれば、食料不足などの問題が深刻化するのではないか。
しかし、不老長寿テクノロジーの研究に携わる人びとは、これはそれほど深刻な問題ではないと考えているようだ。第1の理由は、寿命が延びるとしても生殖年齢は変化しないため、1人の人が生む子供の数は変わらないということだ。
第2の理由は、日本をはじめとする先進国ではむしろ人口減少が問題になりつつあるということだ。平均寿命と健康寿命が延びれば、社会の労働力は増加することになる。この点で、不老長寿はプラスだというのだ。同様に、社会保障費の増大も大きな問題にはならないだろうと考えられている。健康寿命が延長されれば、介護などを必要とする期間は延長されないからだ。
もうすこし具体的な問題としては、寿命が延びれば、政治家や企業経営者などの権力が長期間特定の人に独占されることが増えるのではないか、ということがある。そのことが、格差の拡大を引き起こしたり、社会の硬直化を生んだりするというのだ。これと関連する問題として、寿命の延長によって世代間のギャップや対立が増加するという問題もある。
現在の社会で共存しているのは、子、親、祖父母の3世代か、せいぜい曾祖父母も含めた4世代だろう。しかし、寿命が大幅に伸びれば、社会には5、6、あるいはそれ以上の世代が共存することになる。
これら異なる世代は、経験も異なれば、価値観も異なるだろう。そのように多様な人びとが社会に共存することによって、さまざまな混乱や対立が生じるかもしれないというのだ。
たとえ寿命が延びたとしても
同じことを繰り返すだけ?
さらに、寿命が大幅に延びれば、家族関係に変化が生じるかもしれないという指摘もある。
たとえば、結婚したカップルは、現在よりもはるかに長いあいだ一緒に生活しなければならなくなる。その結果、離婚がより一般的になるかもしれない。また、人生が長くなれば、成人や就職のタイミングも遅くなるかもしれない。それらがただちに悪だというわけではないが、最終的に社会にどのような影響をもたらすかが不明だという点で、注意が必要だろう。