転居先を見つけて父母を先に引っ越しさせた後、家のものを片づけ始めた。大きな家で、しかもどちらかと言うと、ものを捨てられない家族だった。私も学生時代に溜め込んだ雑誌やレコードから思い出の服や写真まで、さまざまなものが残っていた。持って行ける量は限られる。たくさん捨てた。最終日の夕方、不用品を山積みしたトラックが家の前の坂道を下っていくのを見送った。青春時代の思い出が詰まった、大好きな我が家との別れであった。
鹿沼グループに対するサブバンクの強硬姿勢は、自宅の売却要請だけでは終わらなかった。出向者の引き上げに続いて、今度は鹿沼カントリー倶楽部の債権をサービサー(編集部注/債権管理回収専門業者)に売却した。売却先の新興サービサーの責任者は上から目線で指示を出してくる。その様子に辟易とした。
後日談だが、民事再生手続き後にサブバンクの融資担当部長が会社に来た。青葉台の自宅売却を行ったことへの詫びだった。連帯保証人とはいえ、経営者の自宅を取り上げるような行為は慎むべきだったと涙ながらに詫びられた。溜飲は下がったが、失ったものは返ってこない。
グリーン車で講座に参加
「被害者意識」に気付く
外部環境が刻一刻と変化するなか、人事コンサルタントの山口先生(編集部注/山口俊一氏)から、先生が主催する「経営者大学」という講座へのお誘いを受けた。経営の基礎から人事、財務、マーケティングまで、1年かけて経営全般について学ぶ講座だった。
体系的な学びに興味を誘われて参加することにした。自分への投資と割り切って、参加費用は銀行員時代に貯めた預金から支払った。すると山口先生から思わぬプレゼントをいただいた。会場がある京都までの新幹線のグリーン車のチケットだった。1ヵ月に1回、リフレッシュのつもりで来てくださいとのことだった。
この旅路が大きな転機となった。どこにも行けず必死で戦っていた自分への少しばかりのご褒美だった。私は真剣に講座に向き合った。第3回の講座に「SIP(セルフイノベーションプログラム)」というものがあった。360度アンケートや、過去の生き方を振り返ることを通じて、自分自身の今後のビジョンを作る講座だった。