話を聞いてみると、空気清浄機のリース契約だけは解除できないという。契約先について詳しく聞くと、いわゆる総会屋(編集部注/株式会社の株主総会において株主の権利を濫用して不当な利益を得る者のこと)であり、ゴルフ場で何度かトラブルがあった後に、親族関係者が付き合うようになったのだという。
嫌な予感が的中した。
その空気清浄機を見てみると、かなりの年代物でリース期間を完全に過ぎているようだった。しかし、契約書を確認したところ期間の定めがない。弁護士に確認すると、合意解約という方法を取るほかないという。仕方なく、秋沢常務と2人で契約先企業を訪れた。
「よく通ってきたな」
反社との解約が成立
東京・新宿の雑居ビルの中にある事務所には社員が10人くらいいた。応接室に通された私たちは社長に挨拶した後、空気清浄機の解約を依頼した。すると案の定、「ふざけるんじゃねーぞ!」と恫喝された。いきなりの罵声に私もひるんだが、資金がないのでリース代を払うにも払えない。開き直るしかなかった。資金がない者の強みである。
諦めずに何回か通ったのち、先方から一時金を支払えば解約に応じると提示された。最後には、先方の社長に「あんたたちもよく通ってきたよ」と褒められた。粘り勝ちだった。解約の合意を交わした日、先方の事務所を出た瞬間に秋沢常務と喜びを分かち合った。暑い夏だった。
そのほかにも、ある雑誌ゴロ(編集部注/企業の経営内容や役員の不正などに付け込み、広告料や雑誌購読料といった名目で金品を喝取する媒体のこと)との付き合いもあった。「父の家庭環境を記事にする」と脅され、長い間、その雑誌社に対して月100万円の広告料を支払っていた。だが、会社の資金繰りが悪化し、支払うことすらままならなくなっていた。そこで役員が交渉し、手切金として100万円を払うことで関係性を清算してもらった。
昭和からバブル期にかけて、反社会勢力との関係は日本企業の最大の問題の1つだった。私自身も、第一勧銀時代に同行が総会屋事件で揺れたとき、取引先にお詫びをして回ったことがある。鹿沼グループの場合も、欲望が父を闇へと誘ってしまったのだろうか。