祖父母は孫の成長とともに衰え、老いていきます。子どもたちが小学校高学年になるころ、目の前で明らかに衰えていきました。少しずつ身の回りのことができなくなっていった。こんなとき、私の両親は孫に頼めることはすべて、孫に頼んでいました。どうしても私や家内でなくてはできないこと以外、ぜんぶ孫に頼むのです。
「おじいちゃん、あのビスケットが食べたいんだがなあ」
「ちょっとあれを買ってきてくれないかね」
すると、子どもたちは全員、おじいちゃん、おばあちゃんの頼みならばどんなことであれ必ずききました。「いや」とか「後で」と言ったことが一度もないのです。
親に頼まれると「いま、ちょっと宿題をしているから」「弟に頼んでよ」などと言うことが多いのに、祖父母に対してはそれがただの一度もありませんでした。家内がびっくりしていたものです。「子どもに何か頼みたいときは、おじいちゃんかおばあちゃんに言ってもらったほうがずっといいわね」と言っていました。冗談半分、本気半分ですよ。いい作戦だと思いませんか?
祖父母は元気なころ、孫の頼みを断ったことがなかった。怒ったこともない。その祖父母が衰えたとき、孫たちは祖父母の依頼をけっして拒否することがありませんでした。
ああ、そういうものなのか、と思いました。頼むことも頼まれることも、それがお互いにとっての喜びなのです。小学生の子どもたちも、祖父母の頼みに応じることで、祖父母が喜んでくれることがうれしかったのですね。
子どもが親の言うことを
聞かなくなる理由
きいてもらって育った子は、
社会のルールも
自然に学びます
親は祖父母と同じように、なんでもかんでも子どもの言うことをきいてやることはできません。けれど、「うちの子は親の言うことをちっともきかなくて困っている」という人がいたら、やっぱり私はこう言いたいと思います。それは、親が子どもの言うことをきいてあげなかったからでしょう。