良いことのための生態系をデザインするのが、
21世紀型のものづくりの本質
紺野 本村さんたちが苦労しているのは、やはり、「目的群の調整」だと思います。企業が直接、途上国の貧困問題と対峙しようとするとどうしても「寄付」に終わってしまうケースが多い。どんなに社会的に意義のあることでも「良いことをしているんだから、儲からなくても仕方がない」というスタンスです。これでは、長続きしません。
ですから、それを1対1の取引ではなくて、できるだけ多くのパートナーを巻き込んで、一種の生態系のような仕組みとして回していくことが必要になってくる。その生態系をつくりつつ、仕組みを回す先導役を担っているのが、グランマのような組織だと思います。
本の中では「デザイン思考」という言葉も使っていますが、デザインと聞くと一般的には、どうしてもアウトプットされたモノばかりが頭に浮かびがちです。しかし、じつは本村さんたちの活動こそが、21世紀に必要とされるデザインなんです。
本村 僕たち自身も、そういう認識です。クラウド・ファンディングなどの資金調達の仕組みや技術、人は常に僕たちの外側に存在しているので、僕らはそれを組み合わせながら、その時々で必要な「場」を作っているだけですから。
じつは、2010年に開催した『世界を変えるデザイン展 imagine another life through the products』もそうした場の1つでした。僕(本村)という個人が何か事業をしたいから支援してくれと言ってもなかなか信用してもらえませんが、様々な機関とネットワークを組み、展示会やカンファレンス、ワークショップなどの場を通じて思いを伝えていくと、必ず誰かが注目してくれて、相互の目的が合致すると一時的であれ、僕たちにはない資源を組織に投入してくれる。そういう場、あるいは生態系の力は非常に重要だと感じます。
紺野 それは、通常のものづくりでも同じだと思いますね。ものづくりと言っても、じつはものだけをつくっているのではなく、そのために必要な材料や情報を集めて、それを整理し、どういう風に最適化してお客様に届けるか、という一連の流れを作っている。そのなかから、たまたまモノがアウトプットされて出てくるだけなんです。
アウトプットに着目すればそれは「ものづくり」ですが、実際はそこに含まれる知識や情報そのものをデザインしなければ、ものが作れません。もっと言えば、モノとユーザーとの関係性、そこにどのようなステークホルダーがかかわっていけば、利益をあげることのできるビジネスモデルが成立するか、という関係性をデザインしている。
目の前にない便利な道具を1つひとつ作ってユーザーに提供していくことが20世紀版ものづくりのあり方だとしたら、21世紀は関係性をデザインすることがものづくりの本質になっていきます。そのためには、何が本質的な価値で、どこにそのもののニーズがあるのかを見極めていかなければならない。
ニーズのある場所はアジアやアフリカかも知れないし、高齢社会を先駆けて経験している日本かも知れない。そういう意味で、グランマの活動はBoPビジネスという範疇におさまらない、世界が注目するものづくりの最先端だと思います。
(後編は5月31日公開予定です。)
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多摩大学大学院教授、ならびにKIRO(知識イノベーション研究所)代表。京都工芸繊維大学新世代オフィス研究センター(NEO)特任教授、東京大学i.schoolエグゼクティブ・フェロー。その他大手設計事務所のアドバイザーなどをつとめる。早稲田大学理工学部建築学科卒業。博士(経営情報学)。組織や社会の知識生態学(ナレッジエコロジー)をテーマに、リーダーシップ教育、組織変革、研究所などのワークプレイス・デザイン、都市開発プロジェクトなどの実務にかかわる。
著書に『ビジネスのためのデザイン思考』(東洋経済新報社)、『知識デザイン企業』(日本経済新聞出版社)など、また野中郁次郎氏(一橋大学名誉教授)との共著に『知力経営』(日本経済新聞社、フィナンシャルタイムズ+ブーズアレンハミルトン グローバルビジネスブック、ベストビジネスブック大賞)、『知識創造の方法論』『知識創造経営のプリンシプル』(東洋経済新報社)、『知識経営のすすめ』(ちくま新書)、『美徳の経営』(NTT出版)がある。
目的工学研究所(Purpose Engineering Laboratory)
経営やビジネスにおける「目的」の再発見、「目的に基づく経営」(management on purpose)、「目的(群)の経営」(management of purposes)について、オープンに考えるバーチャルな非営利研究機関。
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