そこはかとなく漂う
「逆転する正義」
嵩は試験会場で、辛島健太郎(高橋文哉)に声をかけられる。京都の入試でも見かけたというのだ。絵が上手かったから覚えていたと。
ふたりは試験の教官が新聞連載漫画「フクちゃん」に似ているという話題で意気投合する。辛島は、この漫画は最初、自分と同じ名前のケンちゃんが主役だったのに、いつの間にかフクちゃんが主人公になっていたから好きじゃないと言う。
だが、嵩は漫画家の横山隆一は高知出身なので親しみを持っていて(たぶん、画風も意識している)、横山先生のなかでフクちゃんに思い入れが強くなったのだろうと好意的に解釈する。
ここにもまた、そこはかとなく、このドラマのテーマである「逆転する正義」が漂う。
いつのまにか主人公は逆転する、こともあるのだ。この回の冒頭、嵩は雑誌を先に見ていいという千尋に「いいやつだな」というが、そのあと千尋にからかわれ「いやなやつだな」と言い換えている。
人のなかには良いやつもいやなやつもいるし、作家も自分の作品で思い入れの強いキャラが変わってしまうこともある。弱かったうさ子も別人のように強くなった。岩男の印象も子どものときとは違う。このように揺れ動く人間の心を『あんぱん』は描いている。
と思うと、いま、のぶが主人公だが、そのうち嵩が主役になる可能性もないと示唆しているような気もしてくる。
千尋いわく「幸運と不運の分量が極端」な嵩。いまは災難続きだけれど、漫画も雑誌に採用されているし、主役に踊り出る幸運が待っているかもしれない。
