「マネージャー、すみません。贈答品を購入されたお客さまが、熨の斗し紙に名前を書いてほしいと言うのですが、筆ペンで書ける者がいなくて……」
「それじゃ、お客さまに筆ペンをお渡しして、今、書ける者がおりませんので、申し訳ないですが、ご自身でお書き願えませんかと伝えて」
いったん電話を切るが、さっきまでの楽しい気持ちは吹き飛び、バイトの子で対応は大丈夫かと心配がつのる。そして、1分後――。
「どうしても書けないとおっしゃっているのですが、どうしましょうか?」
「下手でもよろしければ、と断って、それでもいいとおっしゃるなら、あなたが丁寧に書いて差しあげて」
そうこうしているうちに順番が来たが、海賊船に乗っているあいだも店が気になってマナーモードに切り替えたケータイ*を握りしめていた。
親戚に結婚式があれば、半年も前から「この日は私たちはいないので、絶対休まないでね」とパートさんやバイト学生に頼み込み、万一の場合を考えて予備スタッフを確保しておかなければならない。
あらかじめ予定のわかっている結婚式はまだいい。先日、叔父が亡くなった。この店を出したときにも何度も足を運んでくれ、あれやこれやと買い物をしていってくれた恩義のある叔父だった。
夫と一緒に葬儀に出席しようとしたが、人手が足りない。休みのバイト学生やパートさんたちに片っ端から電話をしたが、日が迫っていることもあり、みなNGだった。仕方なく、以前勤めてくれていた近所のバイト学生たちに連絡をすることになった。3人目でどうにか人が確保できた。
そうまでして出かけた葬儀だったが、骨上げの最中にケータイが鳴った。
「日比野君が来ないんです」
日比野君はようやく探し当てた元バイト*の学生だ。午後2時に日比野君がシフトに入り、それまで勤務していたパートの三宅さんが退勤することになっている。しかし、日比野君が来ないため、三宅さんが上がれず、困って電話してきたのだ。
「私、2時半までに子どものお迎えに行かないといけないんです……」