「業績が悪くなったのはお前のせいだ、お前がバカだからだ」
ユニクロが世界的企業になった背景には、創業者・柳井正氏の徹底した経営姿勢がある。とくに業績への信念は、社内で絶対の価値観となっている。売上と利益にこだわるあまり、柳井氏の怒りは時として制御が利かなくなるようだ。
その姿勢を最もよく描いているのが、ジャーナリスト横田増生氏の著書『ユニクロ帝国の光と影』(文藝春秋、2011年)である。
同書は、ユニクロの山口県宇部での創業から、ZARAを視察したスペイン訪問、中国の協力工場まで、地理的にも思想的にも広くユニクロの実態を描き出している。柳井氏のカリスマ性と、その裏にある苛烈さが、社員の証言とともに克明に記されている。
ユニクロ側は、本書に対して名誉毀損を主張し、出版元に対して2億2000万円の損害賠償を求めて提訴した。だが裁判では出版社の主張が認められ、請求は棄却された。この事実そのものが、本書が単なる中傷ではなく、十分な裏付けと取材に基づいた報告であったことを証明している。
書籍の中で、印象的な証言がある。フリースの大ヒット後、業績が一時的に下がった時期の柳井氏の言動について、関係者はこう語っている。
《柳井にとっては業績がすべてであり、業績が悪いということは、どうしても許すことができないことなのだという。そしてフリース・ブーム以降、業績が落ち込んだ時、柳井はその怒りの矛先を澤田に向けた》
《「あのころ柳井さんは澤田さん(※澤田貴司氏・元ファーストリテイリング取締役副社長)に向かって、業績が悪くなったのはお前のせいだ、お前がバカだからだ、ってさんざん責めたんです。ああいう人って、仕事をする距離が近くなればなるほど、熱くって、おっかないですからね。さすがの澤田さんも精神的に参っていたんだと思いますよ。結果としては、柳井さんが信頼していた澤田さんを追いこんで辞めさせたようなものです。あのころの柳井さんは、業績が悪くって血迷っていましたから。柳井さんにとって、業績が悪いっていうことはそれほど許せないことなんです」》