「車の故障と同じで、遺伝子も傷がついたら一旦停止して、損壊した個所を調べ、修復しなければなりません。修復できなければ自爆して、それ以上異常な細胞が増えないようにします。しかしP53遺伝子が壊れると、止まることも、修復することも、自爆することもできず、遺伝子が傷ついた細胞が累積して行って、やがてがんになるというのが、がん発症のプロセスです」

 ビタミンDには、この壊れたP53を減らす働きがあり、がんの再発・死亡を減らせるのではないかと、浦島氏はにらんでいる。

処方箋なし、日光浴でもOK
冬季のインフル予防にも

 浦島氏の研究チームは2022年1月から、ビタミンDサプリががんの再発や死亡を本当に減らすのか否かを明確にするための「アマテラス2試験」を進めている。

 ビタミンDサプリは他にも、毎日摂取することで、インフルエンザなど急性気道感染症の発症リスクを16%低下させることも明らかになっている。

「ビタミンDサプリは医師の処方箋なしで、ネットでも薬局でも購入できます。しかも日光にあたるのは無料です」

 極めて安価でありながら、免疫チェックポイント阻害薬のような年間1000万円以上もかかる超高額な薬を凌ぐ効果があるとは、なんとも痛快な下剋上だ。

 試験の結果が分かるのはまだ先になるが、副作用もなく効果的で、誰の手にも届きやすいビタミンDサプリは、これからの医療に目覚ましいイノベーションを起こすに違いない。

(取材・文/医療ジャーナリスト 木原洋美、監修/東京慈恵会医科大学分子疫学研究部部長・教授、小児科専門医 浦島充佳)