「まずくて吐きそう…」患者に嫌われる病院食が、最近劇的に美味しくなった医療現場の事情見違えるように“美味しそう”になった、今時の病院食 写真提供:日本栄養治療学会

ドロドロのミキサー食も……
病院食はなぜこんなにマズイのか

「病院食はまずい」とよく言われる。

 かつて心臓病で入院していた筆者の父親の病院食は凄かった。ある日の献立は「おかゆ、すき焼き、青菜のお浸し、味噌汁」のミキサー食。「ミキサー食」とは普通に調理した食べ物をミキサーでペースト状にしたもので、誤嚥を防ぐためにトロミがつけてある。

 すき焼きは茶色のドロドロ、お浸しは緑色のドロドロ、味噌汁は薄茶色のドロドロだ。別の日の主菜の「肉じゃが」は、すき焼きよりはちょっと薄めの茶色いドロドロだった。減塩食なので、味は相当薄いはずだ。これでは、健康な人間でも食べるのは無理だと思った。きっと吐いてしまう。

 そんなわけで、元来偏食でわがままな父はまったく食べようとせず、母に持ってこさせた振りかけをかけて、おかゆだけを食べていた。

「お父さん、ちゃんと食べないと死んじゃうよ」と母は嘆願したが、「無理だ」と涙ぐんでいた。結果、病気は治ったが、げっそりと痩せて、筋肉も落ち、歩行が困難になって退院した。入院前はよく登山に出掛けていたが、トイレに行くのも不自由になった。

 病院は病気やケガを治すところなので、病人食(入院食)も、治療を目的とした栄養バランスや消化の良さ、各自の状態に応じた食べやすさなどが優先され、おいしさは二の次であることは仕方ないと理解していたが、なんとかならないものか――。

 と思っていたら、昨今は病院でも「おいしく食べる」ことが重視されるようになって来たという。兆しはすでに10年以上前から現れていたようだ。