未来は必ず良くなる。
ただし注意すべきこともある
私たちが未来を予測し技術開発やビジネスを展開する上で、バラ色の道だけを夢想しても、未来のイメージと共に成功することはできません。
そこにはいくつかの注意点があることを意識すべきでしょう。
発明王のトーマス・エジソン(1847年~1931年)は電球の改良や蓄音機の発明などで知られ、現在まで続く名門企業GE(ゼネラル・エレクトリック)の創業者でもある人物です。
あまり知られていないことですが、発明王エジソンは「電気自動車」が世界で普及することを信じており、電気自動車の改良にも力を注いでいました。今から100年以上前の話です。彼は内燃機関のように、内部で爆発を起こす構造を危険だと認識していたようです。
しかし、航続距離の問題から電気自動車の商業化は見送られ、やがてフォードの発明したガソリン自動車の時代が訪れます。ちなみにスピードのみであれば、電気自動車は時速100キロの壁を1800年代の終わり頃にはクリアしています。
この話からわかることは、100年前の時点で「電気自動車が創る未来」を思い描いた人たちが存在したこと。しかし実用化には100年近い年月が必要であり、恐らく1900年代初めに電気自動車が普通乗用車として活躍すると思った事業家、投資家は厳しい試練にさらされて、夢破れたであろうことです。
未来は段階的に実現され、その一つの階段が「100年単位」である可能性がある。これは一足飛びに未来が実現すると思い込んで事業を行うと、残念な結果になる確率が極めて高いことを意味します。
未来の実現には、必ず「過渡期」を生き延びる戦略が必要です。過渡期に利益を得られる戦略がない事業は、パズルの最後のピースが発見されるまで、生き残ることができないからです。
電気自動車は、航続距離が少しずつ伸びていく「過程」で既にして販売力がある要素を持たなければ、技術革新を待っている段階で企業は資金が枯渇してしまいます。
その意味で、現在世界中を席巻しているトヨタ自動車のプリウスは、電気とガソリンで走るハイブリッド車として、「電気自動車時代の本格到来」をはるか前にしても、着実に販売実績を上げて利益を得ることができる、過渡期戦略の見本ともいうべきモデルです。
技術革新が起こす未来は必ずやってきます。問題はそれが実現されるまで「何年かかるのか」というスパンです。100年後にマーケットができるテーマに対して、今から何ができるのかを考える。その時まで、会社が存続できる「過渡期戦略」があなたのビジネスにあるかどうか、それが重要なことなのです。